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ESSAY
2022.09.02
地域の風土を色濃く伝える祭りの魅力 / 「私が影響を受けた祭りとアート」Vol.1 廣川玉枝(服飾デザイナー)
Edit:Maru Arai
特集「祭り、ふたたび」のシリーズ「私が影響を受けた祭りとアート」では、表現活動を行う方々にご自身が影響を受けた祭りやアート、芸術祭のエッセイを執筆いただきます。今回は服飾デザイナーの廣川玉枝さん。毎年別府で開催される芸術祭「in BEPPU」のテーマに「祭」を選ばれた廣川さん。その制作の裏側や、温泉とアートの街別府をより楽しめる情報や、地元目黒の縁日のお話までたっぷりとご紹介します。
温泉地獄からインスピレーションを得た「廣川玉枝in BEPPU」
2021年は祭の一年だった。それまで祭というものを深く意識する機会はなかったのだが、昨年大分県別府市で開催される芸術祭で、自身が招聘アーティストとなった「廣川玉枝in BEPPU」のメインテーマを「祭」に決めたからだ。
別府の街中では、高温の蒸気や熱湯が大地から噴出する「地嶽」と呼ばれる自然現象がいたるところで垣間見ることができる。その自然エネルギーを源に温泉地が開かれ、各地から訪れる旅人を受け入れながら、多様な文化を生み出す観光地として発展した。この「地嶽」からの恵みで、別府ならではの特殊な風土が形成されていることが何よりも素晴らしかった。
そして、老若男女問わず、誰もが持っている感覚で共有できる芸術を提供したいと考え、この土地の風土を生かした「祭」をテーマにして、別府の地嶽から訪れる神々を創造したら、他にはない唯一無二の強い作品が生まれるのではないかと確信した。
現在のように疫病が流行し、目に見えない災いが訪れ人々を苦しめると、私たちの祖先は神の怒りだと畏怖し、祈りを捧げその怒りを鎮めてきた歴史がある。日々あめつちの神々に感謝を捧げ、豊穣を祈る日常が、日本ならではの美を生み出したのだ。
自然を崇拝し、未来永劫続けてきたこの風習を『まつり』と呼び、人類が芸術を生み出す源となった。いつの時代でも、祈りは希望を導きだし、私たちの心を明るくしてくれる。祭はその機動装置であり、コロナ禍だからこそ生まれる芸術でもある。今に始まり、100年後も伝統として生き続けるような懐かしい未来を創造したいと願いを込めた。
国内有数の温泉地、大分県別府市に毎年1組のアーティストを招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを展開する個展形式の芸術祭「in BEPPU」廣川玉枝さんの6回目は2021年12月18日〜2022年2月13日に行われた。
その様子は下記HPから見ることができます。
in BEPPU URLはこちら
アート三昧の別府をより楽しむには
先ほど別府のエピソードを記載したばかりだが、地域にエールを送るためにここでも紹介させていただきたい。国内有数の温泉地、大分・別府では、毎年1組のアーティストを招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを展開する個展形式の芸術祭「in Beppu」を長年開催してきた。今年は「東アジア文化都市2022大分県」のコア事業として8月5日から現代美術家の塩田千春さんの個展が市内で開催中だ。秋には「ベップ・アート・マンス2022」など地域密着型のアートイベントも組み合わせて楽しむことができる。
地域で行われる芸術祭は、アート観賞もさることながら、その地を観光目的で訪れることも楽しみの一つである。別府は泉質豊かな温泉が八湯エリアに分かれ、それぞれ効能が違う温泉を楽しむことができる。砂湯、むし湯、泥湯など、かなり個性的な温泉が点在し、海地獄や血の池地獄、坊主地獄など100度を超える観賞用の温泉では、まさに地獄を彷彿させる自然そのもののアートも観賞できる。私はリサーチのため何度となくこの地を訪れたのだが、地面から湯気が沸き立つ風景はとても幻想的で、その地熱を利用し、素材を生かしたヘルシーな地獄蒸し料理も絶品。地球そのもののエネルギーがフル活用されて暮らしに表れているのが大変印象的だった。別府は、その土地の風土そのものがアートとして存在しているのが魅力である。温泉で治癒する「湯治」という言葉があるが、別府でしばらく温泉と共に過ごしたら、身も心も洗われて元気になるし、温泉のように温かい地域の方々との触れ合いも魅力の一つだろう。
海地獄のようす
蒸気の熱を生かして、温泉卵をはじめ野菜蒸しなどのヘルシー料理ができる
東アジア文化都市2022大分県
2022年1月〜2022年12月
URLはこちら
塩田千春展/巡る記憶
2022年8月5日(金)~10月16日(日)
11:00~18:00
休み:火曜日、水曜日
会場:別府市中心市街地
URLはこちら
ベップ・アート・マンス 2022
2022年10月8日(土) ~ 11月27日(日)
会場:別府市内各所/オンライン
URLはこちら
私が大好きな祭り、地元目黒不動尊は毎月28日が縁日
私の住んでいる目黒区には、大きな大樹に包まれた目黒不動尊瀧泉寺がある。参道には肉屋や漬物屋など小さな商店が並び、昔ながらの駄菓子屋なども姿を見せ、かぐわしい匂いを漂わせる鰻屋「八つ目やにしむら」にはいつも行列ができ、下町感あふれる街並みに心がホッとする。
境内では、季節を問わず毎月必ず28日に不動縁日が開かれ、早朝からいそいそと露天商が準備を始め、夕方からは子供達がワイワイと集い、夜には煌々と温かな明かりが灯り始める。たくさんの屋台が立ち並び、夏には浴衣を着た幼い子どもたちが駆け回り、仕事を終えたOLやサラリーマンまでにぎやかな憩いの場となり、懐かしくも活気ある風景に心躍る。
目黒不動尊は「お不動さん」の呼び名で地域の人々に親しまれ、平安時代808年に円仁が開基した天台宗の寺院で、江戸時代には徳川幕府に江戸五色不動の一つとして認定され天下泰平を祈願したとされる由緒あるお寺だ。
縁日とは、本来「有縁の日」あるいは「結縁の日」を意味するもので、28日は目黒不動尊の本尊となる大日如来と不動明王の縁日とされている。縁日は神仏がこの世に縁を持つ日のことを表し、この特別な日に神社やお寺に参拝すると特にご利益が生まれるとされているのだ。何気ない日常の中に、古来から育まれた祭を現代でも味わうことが出来る環境があるのは、本当に恵まれたことだと思う。せわしない東京の中でも神社仏閣に足を運べば、私たちはいつでも日常的に祭に触れることが出来るのだ。
天台宗 泰叡山 瀧泉寺 (目黒不動尊)
東京都目黒区下目黒3-20-26
URLはこちら
メインビジュアル
Photo: Takeshi HIRABAYASHI ©SOMA DESIGN /混浴温泉世界実行委員会
©SOMA DESIGN / Mixed Bathing World Executive Committee
DOORS
廣川玉枝
SOMA DESIGN Creative Director / Designer
2006年「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げ東京コレクションに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他Canon[NEOREAL]展 / TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展 / YAMAHA MOTOR DESIGN[02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。 2017年SOMARTAのシグニチャーアイテム”Skin Series”がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ。2018年WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。
volume 03
祭り、ふたたび
古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。
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