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2026.07.08
アートコレクター・野澤克巳が「売ることはまったく考えられない」と語る現代アートの価値 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.49
Edit / Quishin
Photo / Madoka Akiyama
Thumbnail image / ©YAYOI KUSAMA
自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。
ご自身のコレクションを紹介する展覧会会場でお話を聞いたのは、アートコレクターの野澤克巳さん。若い頃にアートを購入したのをきっかけに次々と絵画を購入し始め、2008年には初めて現代アートを購入。2026年6月からは、野澤さんが蒐集した現代アートのうち約70点を展示する展覧会『いま、私は現代アートと出会う』が、浜松市美術館で開かれています。
近年はアートや腕時計などを対象にしたコレクション投資も注目されていますが、野澤さんは「売ることは考えられない」とキッパリ。野澤さんが現代アートに感じる価値──それは、「常に新鮮で、前向きな刺激をもらえること」と言います。
前回は料理家・長谷川あかりさんを紹介!
# はじめて手にしたアート
「『いい意味で、味わうのに時間がかかるんじゃないか』と思いました」

左から:草間彌生《川辺に憩いて》2014年、《A. PUMPKIN (Y)》2004年、《INFINITY-NETS (RMKT)》2014年、《RIVER-DOTS》1985年
手前のボートの作品:《REPETITIVE-VISION, PHALLUS-BOAT》2000年
©YAYOI KUSAMA(*画像転載不可)
近代以前のアートは何十年も前から購入していましたが、現代アートにおいては18年前、55歳のときにはじめて購入しました。
その1点目となる作品が、草間彌生さんの《RIVER-DOTS》です。
きっかけは友人から、「現代アートが盛り上がり始めているから見たほうがいいんじゃないか」と言われ、草間さんの作品を扱っている場所に連れて行ってもらったことから。他のアーティストの作品もありましたが、直感的にこの作品が目に留まりました。
最初の印象としては、「正直、よくわからない」。でもすごく何か、自分の中に入ってくるものがあって、「いい意味で、味わうのに時間がかかるんじゃないか」と思いました。絵画の中には、力強く飛び込んでくるけれど、そのわかりやすさ故に次第に飽きてしまうものもある。この作品は違うんじゃないかという直感が働いたんだと思います。

左から:草間彌生《INFINITY-NETS (RMKT)》2014年、《RIVER-DOTS》1985年 ©YAYOI KUSAMA(*画像転載不可)
これが私にとってはじめての現代アートだったので、「エイッ」という気持ちで購入しました。当時はいろいろな状況がわかっていなかったけど、私自身、チャンスがあったら現代アートの世界に足を踏み入れたいと思っていたんです。
# アートに興味を持ったきっかけ
「購入した作品をリビングに飾ってみたら、世界の見え方がガラッと変わってしまった」

写真中央:香月美菜《5:21:10》2021年 ©Mina Katsuki
写真右手前:菅木志雄《周界支因》1991年 ©︎Kishio Suga
意外に思われるかもしれませんが、子どもの頃はアートが嫌いでした。1 + 1 = 2のように答えがはっきりしているほうが好きで、ほとんどアートに関心を持たないまま大人になりました。
しかしあるとき、お世話になった先輩が開いたギャラリーのオープニングセレモニーに誘われたんです。私なりに先輩が誘ってくれた意味を考え、「今日は買わせてください」と言いました。すると先輩も「どれを買うんだ」と言うので、一周ぐるりと作品を見て回ることに。
すると不思議なことに、これまで全部同じように見えていたアートというものが、一点一点違う見え方で自分の中に入ってくるんです。やはり人間は、いざ買うとなったら損得勘定が働くからか、途端に真剣に見るようになる。パッと目に飛び込んできたのがジャン・カルズーという作家の作品で、その場で購入させていただきました。
購入した作品はリビングに飾ってみたのですが、そこからもう、世界の見え方がガラッと変わってしまいました。たった一枚の絵でこんなにも空間が変わるのかと、絵の持つ力を知ったんです。
それを機にカフェやレストランではとにかく壁に目が向くようになったのですが、あるとき行きつけのお店で「いい絵を飾っていますね、繁盛しているんですね」と言ったら、「野澤さん何年来てるんですか? これ15年前から飾ってあるんですけど」と言われちゃって(笑)。人間ってそうなんだな、視界に入っているものでも意外と意識に入らないのだと気づかされました。
こういった体験から絵に興味を持ち、毎週のようにギャラリーに足を運ぶようになりました。だいたい月に1枚のペースで絵を購入していましたね。
# 思い入れのあるアート
「買ったときに何かがわかっているわけじゃない。だからこそ謎解きのようで、惹かれるのかもしれません」

右から
石田徹也《無題(2)》1998年 ©Tetsuya Ishida Estate
奈良美智《ASH NIGHT》2000年 ©YOSHITOMO NARA
加藤泉《Untitled》2017年 ©2017 Izumi Kato
現代アートを購入するようになってからは、またひとつ、アートの味わい深さを知りました。現代アートの多くは、買ったときに何かがそんなにわかっているわけじゃない。作者の意図もわからないことが多いけれど、だからこそ謎解きのようで、惹かれるのかもしれません。
そういう意味では、サイ・トゥオンブリーは私にとって永遠のテーマです。海外に行った際に偶然、トゥオンブリーの展覧会に出くわしたのですが、なぜこれほどわかりにくい作品をたくさん集めて展覧会をするのか?と考えてしまうほど、わからないことだらけ。
しかし何百点とある作品を見ていくうちに、出るときには後ろ髪を引かれる思いになっていました。はじめはただの落書きのように見えていたのに、次第に、いろんな角度から見た宇宙を表現しているんじゃないかという印象を抱いた。ずっと作品を見続けることで、何か見えてくるものがあるんじゃないかと思わされました。

写真左:ジョアン・ミッチェル《Xavier》1985年 ©Estate of Joan Mitchell
写真右:サイ・トゥオンブリー《マクダでの10日間の待機》1963年 ©Cy Twombly Foundation
ジョアン・ミッチェルも、トゥオンブリーと同じように偶然ある展覧会で、実際に作品を観たのですが、ずば抜けているなと感じましたね。絶対にひとつ欲しいという気持ちになりました。
いろいろなアーティストの作品を見た上で思うのは、ミッチェルは色彩の構成が本当にすごい。飾られた作品と対峙してみると、やはり「圧巻」の一言です。
# アートがもたらす価値
「飽きさせることなく、見るたびにフレッシュな気持ちにさせてくれるのは、現代アートならでは」

現代アートって、とてもおもしろいと思います。人によって見方が全然変わるし、昨日と今日で違うことを感じたりする。飽きさせることなく、見るたびにフレッシュな気持ちにさせてくれるのは、現代アートならでは。私にとっては、常に新鮮で、前向きな刺激を感じられるものです。
美しい作品を見て、わあって感じることもそうだけど、「どうしてこんなふうに制作したんだろう?」と自然と問いかけたくなるような衝撃も、人生においては大切な刺激です。人生というもの自体が、正解がわからないことだらけですから。現代アートは決まった見方があるわけではないので、その側面がより強いと思っています。
こうやってアートを買い続ける中で、「いい条件で買わせてください」と言われることもあります。でも私は、そういうつもりで買ったものは皆無で、売ることはまったく考えられないんです。
私としてはただ、自分の手にしてきた作品たちが一堂に会する瞬間を、ずっと夢見てきました。それが今回の展覧会で叶えられ、本当にハッピーです。
# アートを集めた“その先”
「アーティストはものすごいエネルギーを生み出す存在。最終的に美術館をつくるのが、ひとつの夢です」

写真中央:アンゼルム・キーファー《für Paul Celan - Mohn + Gedächtnis》2014年 ©Anselm Kiefer Courtesy of Fergus McCaffrey
写真右手前:奈良美智《Dogs from Your Childhood [blackboard]》2000年 ©YOSHITOMO NARA
こうやって作品が連なっている姿を目にした今、一つひとつの個性が自分の内側に働きかけてきて、マグマのような立体的な姿で映っています。これだけの癒し、これだけのエネルギーを味わえることって日常生活において他にあるだろうか。そんなふうに思わされる。
たとえばアンディ・ウォーホルは私にとって特に好きなアーティストのひとりですが、女性の靴をモチーフとした《ダイヤモンド・ダスト・シューズ》という作品も圧巻です。ウォーホルは『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された靴のイラストからキャリアをスタートしていますから、靴は彼の原点とも言えるでしょう。そんな靴をモチーフにして、時代の背景や空気、大衆の姿をそのままぶつけている。たった一枚の絵ですべての人たちの生活を打ち出す……本当にすごいことだと思います。
生きているといろんな悩みや問題を抱えることがありますけど、アートの前ではそういったものは一切合切、取り残される感覚になる。それはアーティストというものが、ものすごいエネルギーを生み出す力を持つ存在だからだと思うんです。
これからもそういった作品を買い続けたいですし、まだまだ道半ばではありますが、最終的には美術館をつくって多くの人たちにアートの持つエネルギーを感じてもらいたい。それがひとつの夢です。

Information
「いま、私は現代アートと出会う 草間彌生、奈良美智、村上隆、アンディ・ウォーホル、バンクシー…」
■会期
2026年6月20日(土)→8月30日(日)
■営業時間
9:30~17:00 (入場は16時30分まで)
■場所
浜松市美術館
静岡県浜松市中央区松城町100-1
■入場料
一般1,600円(前売1,280円)、高校・大学・専門および70歳以上800円【小・中学生は無料】
■出展作家
Alain Biltereyst / Andreas Gursky / Andy Warhol / Anish Kapoor / Anselm Kiefer / Banksy / Cy Twombly / Damien Hirst / David Hockney / Frank Stella / Jasper Johns / Jeff Koons / Joan Mitchell / Julian Opie / Kathleen Jacobs / Nam June Paik / Olafur Eliasson / Roy Lichtenstein / Xavier Veilhan / イケムラレイコ / 石田徹也 / 植田正治 / 大竹伸朗 / 香月美菜 / 加藤泉 / 河原温 / 草間彌生 / 小林孝亘 / 塩田千春 / 白髪一雄 / 菅木志雄 / 高松次郎 / 田中敦子 / 奈良美智 / 村上隆 / 元永定正 / 吉原治良 / 李禹煥
展覧会詳細はこちら
DOORS

野澤克巳
アートコレクター
1953年生まれ、新潟県出身。社会人の頃に絵画を購入した体験をきっかけにアートを蒐集するようになり、月1のペースで27枚連続で購入した。1984年にアールビバン株式会社を創業。2014年から同社の会長を務め、アート事業とヨガ事業を展開する。
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