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2026.06.10

「色は元気をくれる、夏野菜みたいなもの」料理家・長谷川あかりが語る、料理とアートの共通点 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.48

Interview&Edit / Mai Mushiake & Quishin
Text / Mai Miyajima
Photo / Madoka Akiyama

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、料理家の長谷川あかりさん。意外な食材の組み合わせで、気軽に「なんだか素敵!」な一皿が完成するレシピを数々考案し、信頼の置ける料理家としてSNSなどで話題となっています。

その独創的なレシピは、なんと「色」から発想していることが多いのだとか。子どもの頃から、元気が出るような原色やビタミンカラーに惹かれ、数年前にはじめて手にしたアートも、あざやかな赤が印象的なトマトの絵でした。色に自分の意志を表出させてきた長谷川さんに、アートと料理について聞きました。

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  • #野口啓代 #連載

# はじめて手にしたアート
「幼馴染みが描いてくれた、あざやかなトマトの絵。料理の仕事を始めるときにオーダーしました」

はじめて購入したアートは、幼馴染みが描いた絵なんです。小学校の頃から絵が上手だった友人が「絵の仕事を始める」と聞いて、すぐに「買います!」と手を挙げて。

それが、ISOCO(磯子)さんのトマトの絵です。

この絵を買ったのは、2021年のこと。ちょうどその頃、私も料理の仕事をしたいと思い立った時期でした。自分のレシピや味について考えるきっかけになったのが、ナポリ旅行で食べたピッツァのマリナーラ。

トマト、バジル、オリーブオイルというシンプルな組み合わせなのに感動的においしくて、「調味料をそんなに使わなくても、おいしいごはんはつくれるのかもしれない」と思ったんです。そこからトマトなど旨味の強い食材に惹かれるようになって、ISOCOさんにトマトの絵を描いてほしいとオーダーしました。それからも、彼女の絵は何枚も購入していて、部屋のあちこちに飾っています。

今、「酒蒸しハンバーグ」の絵もお願いしています。酒蒸しハンバーグは自分の仕事の幅を大きく広げてくれた、神様みたいなレシピ。私の意思とは関係なく、一人歩きして羽ばたいていったので、その「旅立ち」のような気持ちを絵にしてもらいたくて。

取材後に提供してもらった「酒蒸しハンバーグ」の絵


# アートに興味を持ったきっかけ
「子どもの頃から『色』に惹かれていた。色から先にレシピを発想することも多いです」

正直に言うと、アートそのものへの関心をもったのは絵を購入してからなので、ここ数年のこと。でも「色」へのこだわりは、ずっとありました。

小学生の頃は、ショッキングピンクのルーズソックスに紫のダウン、みたいな組み合わせで学校に行って、「派手すぎる!」と先生に怒られていました。ギャル小学生だったんです(笑)。

高校時代には、フランスの「アン・バレンタイン」というブランドの眼鏡がどうしても欲しくて、一生懸命バイトしてお金を貯めて、色も形もすごく個性的な眼鏡を手に入れたりもしました。

色に惹かれるという長谷川さんのお部屋にはカラフルなアイテムがいっぱい

実は、レシピも色から考えることが多いです。料理の色を意識するようになったのは、結婚して記念日などでフレンチのお店に行くようになってから。グリーンのソースに赤紫の穂紫蘇(ほじそ)を散らし、黄色いお花を添えた、白身魚のお料理をいただいたとき、見た目も味もすべてが調和していて、その上でおいしくて、芸術作品に触れているような感動がありました。

私のレシピは「意外な食材の組み合わせ」と言われることがありますが、それは「色がかわいいから」という理由で食材を選んでいるからかもしれません。たとえば、タラコを「ペールピンク」として捉えていたり、「白とグリーンで清々しい色の料理をつくりたいな」というところから発想したりしています。

「色がかわいいと、だいたいおいしい」という私の中の感覚もあります。ワインペアリングじゃないですが、色が似ているもの同士は食材として相性がいいことが多い気がするんです。

特に好きなのは、色のトーンが統一されている料理。韓国のアワビ粥などはすごく地味な色ですが、あの潔さが美しくて好きです。白い陶器に、黒いツヤっとしたマットなお粥が入っている状態は惚れ惚れしますね。

だからレシピに使う色も基本的には2色までと決めています。タラコと長芋を炊いたピンクのごはんにグリーンを足したり、豚肉と長芋に黒ゴマを加えて炒めた真っ黒な料理だったり。ほかの食材の色をジャマしないという意味でも長芋は重宝するんです。


# 思い入れのあるアート
「絶対に合わなそうな色が調和している配色の妙に出会うと、料理に活かしたくなる」

意外性のある配色にもすごくときめきます。絶対に合わなそうな色同士が調和しているデザインに出会うと、自分も料理でなんでも表現できるような気がしてくるんです。

そういう意味で、海外のレシピ本はアートブックだと思って楽しんでいます。料理はそんなにおいしそうに見えないことも多いんですが(笑)、その分「この色を料理に使っちゃうんだ!」といった視覚的な驚きが多い。ページをめくっていると、黄色いパプリカのナムルを真っ青なお皿に乗せたらかわいいかも……などと想像が膨らみます。

海外のレシピ本を参考に、カトラリーを料理の差し色として使うことも多いです。お皿よりも面積が小さいから、バランスも取りやすいんです。

食材や食器からだけではなく、アートや雑貨などから料理の色のアイデアをもらうこともあります。街で偶然見かけたフライヤーや展示作品の配色に惹かれて、ふらっとギャラリーに入ったりもします。

「たとえば今、着けているAdlin Hueの指輪は、私にとっては『美しいのり弁』なんです。こういう黒と茶だけの配色が潔い、モードなのり弁をつくってみたい!」

「以前、お仕事でご一緒した写真家の濱津和貴さんがプラハで撮影した作品です。被写体に合わせた額の赤も部屋に映えます」

# アートがもたらす価値
「色は、私に元気をくれるもの。夏野菜を食べて栄養を補給するような感覚です」

部屋に飾っているアートもそうですが、私にとって好きな色が身近にあることは「夏野菜を食べて栄養を補給する」ような感覚。こう見えて疲れているときも眠いときもありますし、いつも元気が欲しいんです。だから家にいる時間でパワーチャージができるように、カラフルな色が常に目に入ってきてほしい。インテリアの統一感などは二の次でいいんです。

棚に飾られていたヘアオイル。「こういう意外な配色が大好きなんです!」と長谷川さん

色に囲まれているとき、私は自由を感じます。海外の街で大きなアクセサリーを堂々と身につけているマダムを見たときも、同じような高揚感を覚えます。それはどちらも「人からどう見られるか」というところから解放されている気がするから。

今、SNSを眺めていると、みんなが「これがいい」と思う正解を求めている気がするし、人から「それは違うよ」「おしゃれじゃないよ」と指摘されることを避けてものを選んでいる人が多い印象を受けます。ひとつの在り方だとは思うけれど、そういったことから抜け出したときの心地よさもある。「私はこうありたい」という意志が表出するものが、私にとっては色なんです。

# アートも料理ももっとミーハーでいい
「“料理をしている自分”が素敵。自己肯定感を上げられるようなレシピを届けたい」

レシピには、その人がどう生きているかが表れると思っています。

料理って、体験コストが比較的高いんです。レシピを確認して、材料を買って、つくったものがおいしくなかったらかなりショックですよね。そのハードルを乗り越えて「やってみよう」と思ってもらうには、「おいしそう」「簡単そう」「材料が手に入りやすそう」などさまざまなフックがあると思いますが、なによりもそのレシピを発信している人に説得力が必要です。

料理家本人に強さがあること、芯が一本通っていることが「この人の料理ならつくってみたい」という強い動機になると考えています。信じてついていこうと思ってもらわないと「薬味の出汁カレー」のような「大葉とミョウガをとにかく刻め!」という面倒なレシピはつくってもらえないと思っているんです。

料理家として届けたいのは、「料理をつくっている自分が素敵だと思えるレシピ」です。おいしいレシピを届ける素晴らしい料理家さんはたくさんいるので、私は家庭料理との向き合い方を変えていきたい。

家庭料理って毎日のことですし、生活なので、人のためにやらなければならないと思うとだんだん苦しくなってしまう。でも目線を変えればもっとエンタメや自分の癒しの時間として楽しむことができるもの。ちょっといい感じの料理が最短距離でつくれたら、自己肯定感が上がる。自分の体の状態に合う料理を選択し続けられれば健康にもなれる。

アートには、美術史を知っている人じゃないと楽しんではいけないような空気を感じることがありますが、料理にも似たような空気があって、作法や手順をきちんと身につけないといけないと囚われている人も多い。それがキッチンに立つ辛さにつながっているなら、私は「もっとミーハーに楽しんじゃおうよ!」と声を上げていきたい。だれもが自分のハッピーのために料理をつくっていいし、つくらなくたっていい。そこをハッキリと伝えていくのが私の役目だと思っています。

 

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DOORS

長谷川あかり

料理家

1996年、埼玉県生まれ。子役として芸能活動を経験後、大学へ進学し管理栄養士の資格を取得。2022年から料理家・管理栄養士に転身し、活動を開始。「料理をつくっている自分のことが素敵だと思えるレシピ」を届けることをテーマに、SNSなどで発信を続ける。著書に『クタクタな心と体をおいしく満たす いたわりごはん』(KADOKAWA)、『長谷川あかり DAILY RECIPE』シリーズ(扶桑社ムック)など。

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