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2026.04.08

「内面からの土台づくりを大切に」髪の悩みに30年向き合うヘアスタイリスト・shucoの健やかな暮らしのつくり方 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.46

Interview&Text / Miki Osanai
Edit / Mai Mushiake & Quishin
Photo / Madoka Akiyama

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、ヘアスタイリスト・毛髪診断士のshucoさん。パリのファッション業界で活躍したのち、30代前半で帰国。帰国後は、自身の脱毛症をきっかけに向き合ってきた「髪の悩みに対するアプローチ」を多くの人に伝えたいと、SNSでの発信やヘアブランド立ち上げに取り組み、おしゃれをして外出することがより楽しくなる提案をしています。

20年にわたるプロの現場での活動と、30年続ける自身の髪の治療。それらを通して辿り着いたのは、心身の「土台づくり」の重要性だとshucoさんは言います。アアルトの椅子やウェグナーのダイニングテーブル、お気に入りのアートに囲まれた心地よい空間も、美しく健やかな自分でいられる土台をつくる、大切なピースとなっています。

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# はじめて手にしたアート
「ファッション誌を中心にヘアの仕事をする中で、写真を購入したいという気持ちが芽生えていった」

自分ではじめてアートを購入したのは、パリを拠点に仕事をしていた20代後半の頃です。毎年11月に開催される世界的な写真フェア「パリ・フォト」で、こちらの作品を購入しました。

Evgenia Arbugaeva(エフゲニア・アルブガエヴァ)という女性の写真家がロシアの北極圏で撮影した作品です。

小屋のような建物の手前に、現地の人と思われるおじいさんが映っています。

人物が映っていない景色だけのシリーズもあって、元々はそのシリーズを「きれいだな、ほしいな」と思っていました。ファッション誌を中心にヘアの仕事をする中で、「写真を購入したい」という気持ちが芽生えていた時期だったので、思い切ってこの写真を買ったんです。

それよりも前に、本当の「はじめて手にしたアート」を挙げるなら、まだ20歳そこそこの頃に友人からもらった作品になります。Ryosuke Aruse(有瀬龍介)くんというイラストレーターの作品で、私が地元・京都にいた頃からの友人です。

京都から上京した彼が、私の家に2、3日くらい滞在したことがあったんです。当時、私はほとんど家にいなかったので、宿として使っていいよ、と自宅の一部を貸しました。「そのお礼に」と、彼が自分の作品をくれました。カラフルな水玉模様が散りばめられた作品でした。

ポスターなど量産されているものではない、誰かの手によってつくられた無二のものを手にしたのは、それがはじめて。どうやって飾るのかも当時はわからなかったけど、そういったものを大切にしたいなと、無印良品で額を買ってきて飾っていたのを覚えています。


# アートに興味をもったきっかけ

「変身願望が強かった中学生の頃に観た写真、読んでいた洋書から影響を受けて、アーティストという存在について考えました」

子どもの頃からカラフルな色使いの絵本が好きで、母がアトリエ教室に通わせてくれたりしていたので、アートはずっと身近な存在だったと思います。写生大会で金賞をもらったりもしていました。

中学生になると、アーティストと呼ばれる人に興味を持つようになっていきました。

きっかけは、自分の髪の悩み。SNSや取材などでも公表しているのですが、私は10歳の頃から脱毛症を抱えています。そのため、中学生の頃は特に、これまでと違う新しい自分になりたいという変身願望が強かったように思います。

その頃は、写真家であり映画監督のシンディ・シャーマンが、自分の顔を自分でヘアメイクして全然違う人物に変身した様子がわかる写真展を観に行ったり、メイクアップアーティストのケヴィン・オークインがヘアメイクによってモデルをビフォーアフターさせる写真集を見たり。ケヴィン・オークインの写真集は、京都の新京極の古本屋さんでお年玉をはたいて買ったのを覚えています。 そこに映る人物の変身ぶりにすごくワクワクしていました。

そういった写真から、当時の私は、「同じ人物でも、見た目や肩書き、ネーミングといった要素を変えるだけで、イメージはコントロールできるんだ。そうやって、誰かの心を動かしている人がアーティストだ」と思ったんです。

何かの行為によって、誰かの心を動かす。それをやる人がアーティストで、その行為自体やそこから生まれたものをアートと呼ぶんじゃないか。そんな意識が芽生えたのは、この頃に観に行った写真展や、洋書を通じた体験にあったと思います。

次第に洋書や雑誌を切り抜いて自分でコラージュしたりすることも楽しむようになり、そういう中で、将来はヘアスタイリストになりたいと思うようになりました。


# 思い入れのあるアート

「自由なクリエイションが繰り広げられている、パリのファッション誌の現場。それ自体がアートのよう」

23歳でパリに渡り、ファッション誌を中心としたヘアスタイリングの仕事をするようになるのですが、あまりのクリエイティブさに最初はただ、圧倒されましたね。

その頃はファッションの現場もデジタルが主流じゃなかったから、みんなが頭の中の知識から「何年代のあの映画の俳優のスタイル」とか「何年代のあのコレクションのファッション」みたいなイメージを出し合って、古い新聞や雑誌の切り抜きをどんどんボードに貼っていくんです。20年くらい前の話ですが、当時はそうやって雑誌のページをつくりあげていました。

また、商業誌ではあるけど商業的な縛りみたいなものはほとんど無く、どんな一流ブランドであろうともクリエイションが素敵であれば、バッグのロゴとかが服で隠れても全然オッケー。ブランドよりも編集部のクリエイティブ方針が優先されるところが、日本とは異なるように思えたし、「自由なクリエイションが繰り広げられているこの現場自体が、アートのよう」と感じていました。

撮影を通じても、ヨーロッパならではの体験を重ねてきました。ロケの現場がお城だったり、美術館だったり、特定の年代の家具が揃えられた家だったり。いろんな国を訪れる機会があったので、私はよくその国や地域ならではのお皿を購入していました。

特に衝撃を受けたのは、撮影で訪れたアルヴァ・アアルトの家。あまりにも素敵で、いつかこういう家に住みたいと思いました。私の部屋の家具の組み合わせは、アアルトの家からインスパイアされている部分が大きいと思います。アアルトの家には北欧家具の中に金色のライトがあったりしたのですが、私もミックスすることを楽しんでいます。

30代前半の頃は、日本とフランスを行ったり来たりする二拠点生活を送っていて、その後、日本に拠点を切り替えることにしました。そのときにやっぱりちょっと、向こうでの生活が名残惜しくなっちゃって。「パリでの日々を思い出せるようなものを」と、アアルトの椅子を購入したんです。


# 30年向き合い続ける悩みを仕事に

「髪の悩みで一歩を踏み出せない人たちが、少しでも明るく前向きになれるようなお手伝いができたら」

日本に拠点を移して数年後から、髪のお悩みに答える発信を増やしたり、ヘアアクセサリーブランドやヘアケア用品を扱うブランドを立ち上げたりするなど、髪の悩みにアプローチする活動を増やしていきました。

shucoさんのヘアブランド「SUMIDAY」の「マルチHAIR BARM」

実は帰国したのも、もっと髪の悩みに寄り添った活動にシフトしたい、という思いがあったからだったんです。

フランスにいた頃、とあるウィッグの仕事で、脱毛で悩む子どもにウィッグを装着してスタイリングしたのですが、「これで学校に行ける。友だちに会える」のような言葉を聞いて、「ああ、こういうことがやりたいな」とその子のうれしそうな様子を見て思いました。

また、人から「髪にまつわる仕事をしているのに脱毛症なのは、皮肉だね」なんてことを言われたりして、悲しくて腹が立ったりしたこともあるけれど、それがきっかけで「脱毛症でヘアの仕事をしている人が珍しいなら、私にしかできないことがあるはず」と思うようにもなりました。

そんな中、30歳くらいの頃、日本でファッション誌の仕事をしたんです。そのとき、日本のハウツーの豊かさってすごいなと感じました。フランスは突き抜けたクリエイティブがおもしろいけど、ちょっと一般的なシーンに落とし込みづらい部分もある。一方で、日本の雑誌は、生活に活かせるような提案に溢れているなと感じて、「ここだったら何かしら、自分がやりたいこととつながるかも」と思ったんです。

そういった、フランスと日本での経験や養った技術、そして私自身が約30年間かけて自分の髪の悩みに向き合って学んだことを、ひとつの集大成として本にまとめて出版(2026年3月発売)しました。

脱毛症や薄毛だけではなく、白髪や髪質などいろんな髪の悩みに答えられるような内容になっています。「本当はもっとオシャレしたいけど、髪を理由にためらってしまって……」など、髪が理由で一歩踏み出せない人たちが、少しでも明るく前向きになれるようなお手伝いができたらと思っています。


# アートのもたらす価値

「家具やアートなどで自分が喜ぶ空間にしていくこと。それが、自分を内側からきれいに、健やかにしていくことにまでつながっていく」

髪の悩みだけでなく、肌の不調などに対しても言えることですが、何よりもインナーケアが大切です。私の本でも、スタイリングという外側からのアプローチと、食事や睡眠などの内側からのアプローチの両方を紹介しています。

インナーケアというのは、言い換えれば、自分の土台づくり。それは私自身の治療経験からも言えることで、やっぱり、食事と睡眠と運動がおろそかになっていると、どんなにいい治療やケアをしても効果が発揮されないんです。

パリでは、プレッシャーやストレスを抱えながら働くことも多かったのですが、そういう中で生活が疎かになって治療がうまくいかなかったことも多くて。でも環境が変わった今は、体感として効いている感じが全然違うんですよね。やっぱり体が健康じゃないと心も健康でいられないんだなと、痛感しました。

土台づくりの中で、特に大切にしているのは食事。口に入るものも大切だけど、テーブル、椅子、お皿など、食卓という空間づくりも含めて、食事を大切にすることだと思っています。

お気に入りのカトラリー

ダイニングチェアは、デンマークのデザイナー、カイ・クリスチャンセン。ダイニングテーブルはハンス・J・ウェグナー

フランスにはfête(フェット)というパーティ文化があるのですが、現地にいた頃からよく人を招いて、ホームパーティのようなことをしていました。

そのときから、私が好きなもので、かつ、ゲストが喜んでくれるような食事の空間にしたいなと、テーブル周りの小物や家具にこだわっています。もちろんアートも、食卓の空間を彩ってくれるもののひとつですよね。

「フランスにいた頃からの先輩」と語るTAKA MAYUMIさんの作品も、ダイニング、リビングの周辺に飾られている

食事の空間然り、家具やアートなどで自分が喜ぶ空間にしていくこと。

それによって日々の小さな幸せが積み重なり、自分を内側からきれいに、健やかにしていくことにつながっていくと思っています。

Information

書籍『わからない、髪のこと。』

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発行元:芸術新聞社
定価:2,200円(本体価格:2,000円)
サイズ:横130mm×縦188mm
ページ数:208ページ

 

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DOORS

shuco

ヘアスタイリスト/毛髪診断士

京都府出身。短大を卒業後、23歳で渡仏。パリを拠点とし、ヨーロッパ各国のモード誌などで約10年間、ヘアスタイリストとして活動。帰国後は、日本のファッション誌を中心に活動。ヘアアクセサリーブランド「TRESSE」、ヘアライフスタイルブランド「SUMIDAY」などを立ち上げ、ブランド運営とディレクションも行う。

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