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2025.05.28

アーティスト kurry 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.38

Photo / Shimpei Hanawa
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回はカラフルなドローイング作品を制作する大阪のアーティスト・kurryさんのアトリエにうかがった。

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今回の作家:kurry

アパレル、内装業などを経て2009年よりアーティスト活動開始。主にキャンバス画の制作を中心に、ミュージシャンへのデザイン提供、ファッションブランドやセレクトショップとのコラボレーションなど多岐にわたり活動する。

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《Every day fireworks #1》 2024 スプレー額装有(アルミフレームにホワイトシート貼り)  Flame size : H620mm×W468mm×D22mm
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写真左/《NORA GIRAFFE -1-》 2024 カットした木にペイント 約230mmx140mmx25mm、右/《NORA RHINOCEROS -1-》 2024 カットした木にペイント  約110mmx230mmx25mm

 

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kurryさんに質問です。(とに〜)

おかげさまでこの連載が始まって間も無く丸3年。これまでさまざまなアーティストにご出演いただきました。そのキャスティングは毎回編集部の皆様が行なっています。次回はどんなアーティストがゲストなのか。質問とその回答でのやり取りするだけなので、直接お会いする機会はないですが、いつも楽しみにしています。
さて。今回質問にご回答頂くのは、グラフィックアーティストのkurryさん。ゲスト決定の報告メールを受けた時に、「Curryさん?」と一瞬空目してしまったのはここだけの話です。見間違い、大変失礼いたしました!
その作風は、カラフルで軽やか。耳をすませば、ハミングや鼻歌が聴こえてくるかのような。観ているだけで、ポジティブな気分になる作品は、日常の何気ない瞬間を気の向くままに切り取って制作されたものだそう。制作はもちろん、kurryさんがどんな日常を送っているのかも気になるところです。


Q01. 作家を目指したきっかけは?

ちっちゃい頃から手を使って何かを作るのが好きだったな〜、という記憶は薄ら残っていて。
それもあってか周りより少し絵が上手な少年でした。そんなこんなで、いよいよ進路を決めるタイミングになって、目標もないまま周りに勧められて関西のいくつかの美大を受験するのですが全滅し、浪人してまた全滅、結局美術の専門学校に入るも卒業間近で中退。その後は興味のあったアパレルや、内装のアルバイトをしながら漠然といつかは絵の仕事をするんだと周りに対して言い訳をするかの様にダラダラと絵を描いていました。
忘れもしない29歳の年末に、当時のアルバイト先が潰れ、またバイト先を探すか絵だけでやっていくのかの選択に迫られ、初めて本気で絵で食べていくという事と向き合いました。
その後、沢山の奇跡の様な事があって、今まで何とか絵でやって来れています。
きっかけといいますか、ちゃんと向き合ったのはこの29歳の年末のバイト先が潰れた事だと思います。

「バイトを辞めた後、たまたま毎月オファーが来たんですよ。店の絵とか看板を書いて欲しいって。それで夏くらいまでは一応生活できたんですけど、いよいよ営業に行かなきゃなって思ったんです。大阪難波で絵の販売もしている〈excube〉の店長に連絡してみようとしたら、ちょうど向こうから個展やりませんかってオファーがあったんです。その店のWEBショップにも取り扱ってもらったら作品が売れるようになりました。ホンマにありがたいことに、なんかこうやってこれて今に至ります」

Q02. まず何と言っても目を惹くのが、個性的な色遣いです。配色のこだわりがあれば教えてください。

最近の作品の配色は直感的にパッと手に取った色を使って、その時に出来る偶然性みたいな表現が面白いと感じてます。
また、明るい色を使う事が増えたので、今は本能的に明るくなりたい気分なんでしょうか。
それと配色とは関係ないかもしれないのですが、なるべく気分がいい時に描くようにしてます。

アトリエの壁に飾られていたkurryさんの作品。「初期の頃はバンクシーみたいにステンシルを使って、元々あるキャラクターのパロディを制作していました。それから、ギリギリ人だと判別できるようなぼかした人物画を描いたり、いろいろ。でも、甘いパンばっかり食べてると、辛いのがなんか食いたくなるみたいな感じで。ちょっと違う感じでやりたくなるんです。今は子どもからの影響でこういう作品を描いてますが、数年後はどうなっているか分からない(笑)。あと、死ぬまでにはアニメーションに挑戦してみたいです」

Q03. シンプルな線ながらも、一目でkurryさんのものだとわかります。線のこだわりがあれば教えてください。

配色の解答とも重なる感じになりますが、スプレーなど使う時はなるべく迷わずに瞬間的に描くようにしてます。指の力の少しの入れ加減でラインの太さなど予想もしないラインが出来るので、上手いとか下手とかの基準じゃなくてその瞬間の沢山の偶然が重なって出来上がってくる感じの絵が面白いと考えてます。
きっかけは娘が絵を描いているところを見て、なんか僕ももっとシンプルに絵を描きたいなと気付かせて貰った事です。
子どもといると大人になるにつれて出来上がってくる固定観念みたいな物をいい感じに壊してくれるので、今の僕にとって子どもは先生みたいな感じです。

「この作品≪flower and Vase -P-≫も子どもからの影響なんですよ。一緒に積み木遊びをしていた時に、だんだん大人の方が夢中になってしまって。その時に刺したり抜いたりできる、花瓶みたいな作品を作れないかと閃いて制作しました。子どもと遊んでいるとヒントをもらうことが多いです」


Q04. モチーフが多岐にわたっていますが、kurryさん自身もっともお気に入りのモチーフは何ですか?

同じ事をずっとやってると飽きちゃうので、なるべく自分が飽きない様に、許す範囲でその時に描きたいと思うものを描いたり、実験的な事をやったり、絵以外の事もやってます。それこそ絵のタッチも今まで描いてきた絵とは別人くらい変わったりもしてますし、これからも変わっていくと思います。
だからあまりモチーフには囚われない様に意識していると思いますが、花や動物の絵は定期的に描いてるなと思います。

兵庫県のコーヒーショップでポップアップ「sunrise.sunrise」を行った際にkurryさんが一から制作したというクッション。「子どもが来ても楽しめるように」と、会場の入り口を木と動物のクッションで埋め尽くした

木のクッションを作る前のスケッチ。思い思いの色を手に取り「シャシャシャって感じで」描くという

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《The only flower in the world #2》

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Q05. シンプルな作品だからこそ、フィニッシュが難しそうです。自分の中で「これで完成!」となるのは、どうなった時ですか?

たしかに終わりどころで悩む時はあります。
出来た絵を何日か間を空けて改めて見た時に少し新鮮に見れるのでその時に受ける印象で色などを足す事もあれば、終わったりすることもあります。又、沢山描いたものを並べてその中から感覚でいいと思うのを選んだりする時もあります。

 

Q06. 作品に対する感想で今まででもっとも印象に残っているものは何ですか?

福岡で個展をした時に颯爽と現れた女性の方がいて。
話を聞いたら、僕の事なんて全く知らず、なんなら興味も無いくらいの勢いでインスタで流れてきた絵を見てとても良かったから来ましたと、そして小声で「良い、良い」と呟きながらササッと数枚絵を購入して頂き、また颯爽と帰って行かれたかっこいい女性がいました。
純粋に絵を気に入ってくれたんだなぁと印象に残ってます。

「この作品《The only flower in the world #1》は思いついた色でフリーハンドでパパッと描いたもので。普段描きためたものから良いなと思った絵を厳選しています。昔はきっちり色とか選んで、仕上がりを決めて描いていたけど、そういうの飽きたのかもしれない(笑)」


Q07. 制作中によく視聴しているものは何ですか?

作業の内容によって聴く音楽は変えたりしてますが基本的には洋邦問わずCHILLな音楽を流しています。
人恋しい時は懐メロや、ラジオみたいなものを流したり。そして最近は音楽をかけない時もあります。そうすると、鳥の鳴き声や遠くの工事現場の音、そして下の階の観光客向けのレンタルサイクル屋から飛び交う英語の会話などが聞こえて、なんかここ外国みたいだな〜、なんて事になってます。


Q08. ところで、なぜ“kurry”という作家名なのですか?

あだ名がカリーだったんで、それを英語にしたんですが、それだとcurryになるので頭のcをkにしました。
大文字、小文字は特に決めてもないです。
後は昔、知人のまた知人の霊能者みたいな人がカタカナの表記の時は「カリー」がいいと言っていたのでそれだけは守ってます!
因みにカレーには全然詳しくないです。


Q09. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

僕の青春時代は90年代位だったんで僕の周りもそうでしたが、その頃の大阪のアメリカ村周辺のファッションを中心としたカルチャーに影響を受けました。
当時の僕にとっては外国に来たかと錯覚するくらいのインパクトでした。そんな中、洋服屋で働いたりすると、そこで出会う人達は刺激的な人が多く、背伸びをしながらもその中で得た色々な経験は今の僕の価値基準なんかにも繋がっていると思います。
絵とかではないですが、当時はMVもいけているのが沢山あって、中でもケミカル・ブラザーズ、ビースティ・ボーイズ、ビョークなどのPVでスパイク・ジョーンズ、ミシェル・ゴンドリーなどが手掛けたMV作品を初めて見た時は鳥肌が立ったのを今も覚えています。

kurryさんのアトリエには収集しているフィギュアやぬいぐるみが並ぶ。中には自作しているものも。「このみうらじゅんはコロナ禍に作ったものです。あの当時って、悪い噂もいろいろと聞くし、これはきっと社会が終わるから、仕事せんでええなって思ったんです。それでみうらじゅんの人形作ったり、ガンダムの絵を描いたり、有名デザイナーのスニーカーを再現して作ったりしていました」


Q10. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

こだわりとまではいかないかもしれませんが、最初に物件を見に来た時に窓が沢山あって開放的な所が良くてここに決めました。
ここに来て、たぶん7年目位なんですが、1年に1回くらい自分で内装を変えたりしています。
こだわりとまではいきませんが、それがいい気分転換になっているように思います。
ちなみに、今住んでる家も3年前に半年かけて、解体からほぼ1人でYouTubeの動画を参考にリノベーションしました。

 

7年前に入居したというkurryさんのアトリエは広々としており整理整頓が行き届いていたが、ご本人によると「片付け嫌い」らしい

天井の木材の張り替えや、梁の着色もkurryさん一人で行ったという。「あたまハゲるくらいめんどくさいんですけど、やり始めちゃったら終われないので人生と一緒ですね」

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Q11. 今だから話せる作家人生での失敗談を教えてください。

これは失敗談にならないかもしれませんが、かなり昔、僕が『いいとも』や『徹子の部屋』に出て告知をしました、みたいな合成画像を作って当時のブログに書いてたんですが、後に大きな会社から仕事の依頼が来て、そこの社長さんと話をしている時に、kurryさんは『いいとも』にも出られてたんですね~、みたいな話になり、僕は、はい?と一瞬何の事かわからなかったんですが、、、あ!、、、あのブログだー!!!となり、すいません、あれご、合成なんです!ってみたいな事はありました。
もしかしたらそれで仕事の依頼が来たんじゃ無いかと申し訳なく思ったんですが、社長さんは優しく「そうなんですか〜、大丈夫ですよ〜」と流石の対応でした。
ちなみに、その後親からも「あんた『いいとも』出たんか?」と連絡が来ました。
それだけ僕の合成技術は高かったのと親にブログを見られてるのがわかった出来事でした。


 Q12. もし、美術館で誰とでも2人展を開催できるとしたら、誰がいいですか?

宮崎駿さんか高畑勲さん。
本当に只の憧れで、2人展とかは恐れ多いんですが、ほんのちょっとでも何か一緒に作るとかが出来るなら、想像するだけでたまんないんです。
ホントにもしもの夢の中の夢の話です。

 

Q13. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

僕は今も作家みたいな自覚はあまり無く、できる事、やりたい事が運良く出来ているだけの自由業みたいな感覚なんですが、もし今と違う道に進んでても何か近い様な事を1人でやっている様に思います。

「この絵は個展「New youk」(2024年/BaBaBa)で発表したもので。即興的に描いた線を間違いがあっても肯定して描き進めた作品で、これは風景画で道を描いています。道って“こう行かなあかん”とかないわけで、どこに行ったって良い。本来、間違いってなんでしょうね?」

「そもそも僕自身アーティストって名乗ると違和感あるんですよ。アートやるって感じもちょっとあんまりない......。あっち行こうとしていたら、めっちゃ右行ってたとか、流れに任せている感じかもしれないわぁ」


Q14. 職業病だなぁと思うことは?

この質問を頂いて、何かあったかな〜?と考えてみたんですが、曜日の感覚が分からなくなるくらいでしょうか?


 Q15. 日常での笑える失敗談を教えてください。

スーパーに買い物に行ってレジに並んでる時に財布がないのに気付いて、アッと買い忘れに気付いたフリをしてカゴのモノを元あるとこに返して、家に帰るサザエさんみたいな事はしょっちゅうしてます。

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《Every day fireworks #1》

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シンプルでフリーハンド感のある線は、一見すると“子どもっぽい”印象を受けるかもしれませんが、実際の作品を観ると決してそうは思えません。その理由が今回のアンケートを通じて、確信に変わりました。“子どもっぽい”のではなく、子どものように素直で純粋な作品なのですね!
いつか宮崎駿さんとの2人展が実現することを願っています。きっとお互いこだわりが強そうなので、「面倒くさいなあ。あー面倒くさい。面倒くせえぞ」と言いつつ2人で展示壁とか塗っている映像が思い浮かびました(笑)。
ちなみに、自分も29歳の時に、当時のアルバイト先であるミニストップが潰れたのがきっかけで、アートテラーに専念するように。勝手に縁を感じてしまいました。(とに〜)

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アーティスト大澤巴瑠編 / 連載「作家のアイデンティティ」はこちら!

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アーティスト 大澤巴瑠 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.37

  • #アートテラー・とに〜 #連載

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ARTIST

kurry

アーティスト

アパレル、内装業などを経て2009年よりアーティスト活動開始。 主にキャンバス画の制作を中心に、ミュージシャンへのデザイン提供、ファッションブランドやセレクトショップとのコラボレーションなど多岐にわたり活動する。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

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