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- 部屋に飾った作品が誘うパラレルワールド / 永山祐子(建築家)
ESSAY
2022.01.20
部屋に飾った作品が誘うパラレルワールド / 永山祐子(建築家)
Edit / Eisuke Onda
特集「部屋から、遠くへ」ではアートを愛する方々が、“遠く”を感じる作品についてのエッセイを綴ります。建築家の永山祐子さんが紹介するのは、川久保ジョイさんの写真作品。作品を部屋の中で飾り、毎日のように眺めていたら、ふと遠くを感じる瞬間がある。日常を非日常に誘うアートの力とは?
ARToVILLAオープンに際し、メッセージも寄せていただきました。

Image courtesy of Yoi Kawakubo and Yamamoto Keiko Rochaix. Photo: Ken Kato for the Shiseido Gallery, 10th Shiseido Art Egg. ©️Ken Kato, 2016
「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば Ⅰ」
「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば Ⅱ」
「千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならば Ⅲ」
川久保ジョイ
金融トレーダーから現代美術の作家に転身という異色のキャリアを持つ川久保ジョイ。彼が2013年、2016年に制作した福島第一原発から30km圏内の土中に埋めたフィルムを現像した写真作品。地中の放射の光で感光させることでカラフルな色がフィルムに焼き付く。
心の均衡を保つ、地中の光を写した写真
川久保ジョイさんの作品は家のガラス張りの階段室に飾っていて、毎日目にしています。福島第一原発から30km圏内の土中に埋めたフィルムを現像した写真作品で、重いテーマとは裏腹にとても綺麗な色彩の写真です。グリーン、パープル、イエローの3部作で、玄関入った壁にグリーン、上の階の壁にイエローとパープルを飾っています。この色の配置も色々と考えてこの位置になりました。朝の光の中で見る作品、夜スポットライトで見る作品、時間によって見え方が変わります。グリーンは階段下の空間を綺麗な緑色に染めてくれます。イエロー、パープルは奥から光が湧き上がってくるように感じます。そこにアートがあることで空間が変化します。
夜、闇の中で浮かび上がる作品をひと息ついた1人の時間に眺めるのが好きです。アートがある生活は私にとって自分の生活の流れとは違う、もう一つのパラレルワールドの入り口のようなものです。そこに想いを馳せることで自分の生活の中にはない文脈、時間軸が紛れ込み、心の均衡を保ってくれるような気がします。
DOORS

永山祐子
建築家
青木淳建築計画事務所を経て、2002年に独立。代表作に「女神の森セントラルガーデン」「豊島横尾館」「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」などがある。またアートイベント「TOKYO 2021」を企画するなど、アートと建築の間でより良い空間や都市の形態を思考する。設計を手がける高さ約225メートルの高層建築「東急歌舞伎町タワー」が2023年に開業予定。
volume 01
部屋から、遠くへ
コロナ禍で引きこもらざるを得なかったこの2年間。半径5mの暮らしを慈しむ大切さも知ることができたけど、ようやく少しずつモードが変わってきた今だからこそ、顔を上げてまた広い外の世界に目を向けてみることも思い出してみよう。
ARToVILLA創刊号となる最初のテーマは「部屋から、遠くへ」。ここではないどこかへと、時空を超えて思考を連れて行ってくれる――アートにはそういう力もあると信じています。
2022年、ARToVILLAに触れてくださる皆さんが遠くへ飛躍する一年になることを願って。
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