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REPORT
2024.12.18
タイ、バンコク。日常風景と共に楽しむ / ライター・竹村卓の、この街ならではのアートの楽しみ方、歩き方
Edit / Mo-Green
ふらりと心赴くままに街歩きをしてみると、その街のアートも自然と見えてくる。今回はストリート・カルチャーに精通したライター・編集者であり、書籍『NEW NEW THAILAND 僕が好きなタイランド』(TWO VIRGINS)の著者、竹村卓さんにタイ、バンコクでのアートの楽しみ方を聞いてみた。
混沌でパワフルな、タイ、バンコク。 ここでしか味わえない雰囲気を求め多くの人たちが訪れる。 伝統そして歴史を大切にしながらも積極的に新しいものも取り入れる。 ここで暮らす人たちの生活を見てみるのも楽しい。 この街のアートに触れたいのなら、バンコクの日常風景と共に楽しむのがおすすめ。
―タイは不思議な国
この国に通い始めて20年近くになるけれど、いまだにわからないことや驚くことがたくさんある。とにかく謎が多い。タイの首都、バンコクで空を見上げると、目につくのが電線。なにしろその線の数にびっくりする。今みんなが想像する数のたぶん20倍くらい。そしてなにより不思議なのがそれがしっかりと機能しているというところ。
夜の光に照らされると一層その存在感をます電線
どこもかしこも電線の量が普通ではない。バンコクの日常的風景
長く余った電線はクルクルと丸めておくスタイル
屋台はバンコクの日常風景。いたるところで見ることができる
日が暮れていくと歩道のあちこちに並びはじめる屋台。その屋台に煌々と明かりがついているけれど、発電機は見当たらない。よーく見てみると空からたれてきてる一本の蜘蛛の糸、いや、電線。その先はなぜかコンセントプラグになっていて、屋台を明るく照らすライトのプラグにしっかりと刺さっている。これって…ト、トウデ…、ん?って屋台の店主と目があうと、「アメージン、タイラーン!」( Amazing Thiland ) とニコニコしながらつぶやいた。そうだ、ここはタイランドだった、細かいことなど気にしない、とにかくどんなことがあっても驚かないのだ。
トゥクトゥクもバンコク名物。エリアによってトゥクトゥクのカスタムスタイルも変わる
朝から営業する屋台、ローカルの人たちやタクシードライバーたちが立ち寄る
―アートが身近な街
バンコクでアートに触れるおすすめの方法は、街の生活風景を含めて楽しむこと。美術館から市場、トゥクトゥクに乗ってギャラリー、今度は水上バスに乗ってお寺巡り、街中のミューラルから屋台、そしてジャズバー、街の風景、そこで暮らす人々の生活、アートや音楽。すべてを流れて見るとこの街の魅力がさらに深まる。そしてアートは日常生活の中から生まれていることを再認識できる。
ホウキを売る移動販売?日常的なこのスタイルも見る人にとってはアートなのかもしれない
バンコクの最大の中心地、サイアムエリア。高級モールや学生が集うブティックやカフェが建ち並ぶ街の中心地。渋谷と新宿と銀座が合わさったようなエリア。買い物の合間にアクセスできるのが「BACC(バンコク・アート&カルチャー・センター)」。駅や周りのモールから直結の連絡通路で気軽に立ち寄ることができるこの施設は、バンコク都が運営する美術館。
バンコクの中心地サイアムにある「バンコク・アート&カルチャー・センター」通称BACCはバンコクの人たちにとっても馴染みの場所
学生の展示から国内外のアーティストの展示まで。年間を通して面白い企画展がおこなわれている。アクセスも良く、入場無料なので館内はいつも賑わっている。そのほかアート関連の物を扱ったショップもある。館内にある「Gallery Drip Coffee」はタイ産のコーヒーを堪能できるカフェ。バンコクのカフェオーナーたちもここのコーヒーを飲みに来るという名店。
いつ訪れても面白い展示をしているので毎回訪れるのが楽しみ
サイアムの交差点にかかるスカイウォークのひさしにはアーティストの作品が描かれている。バンコクのアーティストMamaBluesの作品
「Payaq Galley Cafe & Bar」のオーナーでアーティスト TRKの作品も見ることができる
BACCの館内はらせん状になっている構造
BACC内にあるカフェ「Gallery Drip Coffee」店内にもMamaBluesの作品を見ることができる
バンコク発のスケートボードカンパニーPreduce Skateboards の元アートディレクターでアーティストのTRK氏が友人とオープンさせたギャラリー兼カフェバーの「Payaq Galley Cafe & Bar」は旧市街にある一軒家を改装して作られている。クルマも入れないような小道を進んでいく。150年も前に立てられた建物の中では定期的に地元や海外のアーティストの展示をおこなっている。音楽イベントや映画鑑賞会などのイベントもおこなわれ、バンコクのローカルアーティストたちと直接出会うことができる場所でもある。
旧市街の細い道の奥にある「Payaq Gallery Cafe & Bar」
地元の人たちの生活を感じながら歩くことができる
150年ほど前に立てられた木造の家をそのまま利用しているので当時のインテリアを見ることができる
「Payaq Gallery Cafe & Bar」ではいつも楽しそうなイベントがおこなわれている
―風景の中にあるアートを楽しもう
フアランポーン駅、東京でいう上野駅のような存在。かつてはここからタイ全土の都市へ列車が走っていた。それに変わってクルンテープ・アピワット中央駅がその役割を担うことになった。今でも何本かの列車がこの駅からの運行を継続している。
1916年に竣工したこの駅は、ドイツ・フランクフルト駅をモデルにドーム型のデザインをした建築が素晴らしい。取り壊されてしまうかもしれないので今のうちに見ておくのがおすすめ。
フアランポーン駅。東京で言えば昔の上野駅のような存在。アーチの建物が素晴らしい
ホームにも入ることができるのでぜひ見てみて欲しい
丁寧に作られたベンチ。当時の職人の技術が光る、いまでは見ることができない貴重な作品
フアランポーン駅からチャイナタウン方面に歩いて行く。ソイ・ナナというエリアはギャラリーやカフェバーなどが集まる。昔からそこで暮らす人々や商店の間に古い建物をそのまま利用した新しい店舗がひっそりと佇む。タイの伝統的な生演奏を聴きながらオリジナルのカクテルが味わえる「TEP BAR」の店舗脇の壁に描かれている作品はTRK氏によるもの。
フアランポーン駅からチャイナタウン方面へ。今人気のナナエリアにある「TEP BAR」
「TEP BAR」のシグネイチャーカクテル「ソンクラーン」
まるで映画のセットのような風景
バンコクで最も古い車道と呼ばれているジャランクルン通り。チャオプラヤー川近くのラマ3世通りあたりから北はチャイナタウン、ヤワラートあたりまでを通る道。この道はこのあたりに住む人たちの為の生活道路であり、昔から営む食堂や屋台、そして生活雑貨を扱う店などが並ぶ。通り沿いには1940年に建築されたバーンラック中央郵便局の南館を改装してオープンした「タイランド・クリエイティブ・デザイン・センター」(通称TCDC) がある。館内にはギャラリー、ライブラリー、コワーキングスペース、ショップやカフェが併設され、デザイナーやアートを学ぶ学生たちが多く利用している。このTCDCがオープンした後、この通り沿いには第二次世界大戦の時に建てられた古い倉庫を改修してオープンしたギャラリーやカフェ、ヴィンテージショップが軒を並べる「Warehouse 30」など、現代と伝統文化を上手に融合させたスポットと共にバンコクの今を通してアートに触れることができる。
ジャランクルン通り沿いにある「Warehouse 30」は古い建物を再利用している
バーンラック中央郵便局の建物内にある「タイランド・クリエイティブ&デザインセンター」1940年に建設された歴史的建物
最近人気の場所タラートノイ。中華街とチャオプラヤ川付近にあるエリア。街中で育つ植物がとても元気そう
小さな裏路地にたくさんのミューラルが並ぶ。点在するカフェやショップに立ち寄りながら回ることができる
壁画にある大雑把な地図を見て迷いながら歩くのが楽しい
まるでタラートノイの風景に同化してしまった小型車
生きること、すなわち食べること、寝ること、働くこと、そして遊ぶこと。すべてが生活の一部、ここバンコクでは街で生活している人たちの様子がよく見える。そしてアートも生活の一部になっていることに気がつく。
DOORS
竹村卓
編集者/ライター
東京都出身。中学生でスケートボードに出会う。アメリカのカルチャーに憧れ、21歳で渡米。ロサンゼルスでカルチャー誌、ファッション誌、広告などのコーディネーターとして活動する。帰国後ライター、編集者として、数々のカルチャー誌で執筆、広告制作に携わる。アート展などのキュレーターとしても活動。著書に『NEW NEW THAILAND 僕が好きなタイランド』(TWO VIRGINS)『ア・ウェイ・オブ・ライフ 28人のクリエイタージャーナル(P-Vine BOOKS)』がある。タイ国政府観光庁の公式ウェブサイトAmazing Thailand内で「ニューニュータイランド 僕らが好きなタイランド」の連載がある
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