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INTERVIEW
2026.07.22
画家・山本太郎とフリーアナウンサー・東留伽が語り合う。琳派、クリムト、アートの楽しみ方
Photo / Masashi Ura
Edit / Eisuke Onda
2026年8月、Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 5階)にて個展を開催するニッポン画家・山本太郎さん。日本画の技法を用いながら現代の風俗をユーモアとともに描いてきた山本さんが今回、対談相手に指名したのはアーティスト活動もするフリーアナウンサー・東留伽さんだった。
漫画に夢中だった子ども時代から、山本さんの進路を変えた沖縄への自転車旅、琳派の巨匠たちによる“究極の推し活”まで。さらに話題は、クリムトやジャポニスム、二人ならではの美術鑑賞法へ。異なる立場からアートに関わる二人が、それぞれのルーツと「好き」を辿りながら、自由に語り合ってもらった。
ニッポン画の定義

——まず今回、山本さんが対談相手に東さんをご指名された理由を教えてください。
山本:『美術手帖』のYouTube番組で、MCの東さんに目が留まりました。編集長と対等にディープなアートトークを繰り広げる東さんに興味を持ったんです。調べると、アナウンサーのほかにアーティストとしても活動されている。一体どういう方なんだろうと好奇心が湧き、お話を伺いたいと思いました。
東:ありがとうございます! 山本さんの作品はポップで可愛らしく、私も気になっていました。「日本画」は厳格で敷居が高いイメージがありますが、山本さんの作品は技術的な伝統を踏まえつつも、入り口がすごくキャッチーで。小学生が見てもパッと楽しめる、多くの方に開かれたものだと感じていました。

左から 山本太郎《Yellow Thunder God》、《Red Wind God》 2025年 和紙の上にシルクスクリーン(モノプリント)
——山本さんの作品は伝統的でありながら非常にユーモラスです。ご自身が提唱されているカタカナ表記の「ニッポン画」の定義について、改めて教えていただけますか。
山本:大学3年生から「ニッポン画」と名乗っていますが、当初から3つのルールを設けています。1つ目は日本の伝統絵画の技法や材料で描くこと。2つ目は古い時代の模倣ではなく、今自分が生きている「日本の姿」を描くこと。そして3つ目は、それらを「ユーモア」を持って表現することです。
東:あえてカタカナで表現された意図は何だったのですか。
山本:周囲の「日本画」とは違う独自の定義が必要だと感じたんです。当時は村上隆さんらが世界で活躍し始めた頃でもあり、自分の作品を定義して世に出す必要性を強く感じていました。既存の日本画に対するアンチテーゼの気持ちもその頃は強かったですね。
人生を変えた沖縄自転車旅


——お二人はどのようなカルチャーに触れて育ってきたのでしょうか。
山本:僕はかなりのオタクです(笑)。高校生の頃は漫画家志望で、『ドラゴンボール』や『スラムダンク』をリアルタイムで読んでいました。ただ、熊本のような地方には漫画家になるための情報が全くない。まずは絵が上手くなったほうがいいと、美大受験予備校に行き始めたのがきっかけです。

東:私も小さい頃、手塚治虫さんの作品などを読み漁っていました! オタク気質なところは共通していますね(笑)。そこからどうやって日本画の道へ進まれたのですか。
山本:進路は二転三転しました。予備校の先生の影響で、油画科を目指して浪人生活を送っていましたが、3浪目で行き詰まり、自転車で熊本から屋久島、さらには沖縄へと旅に出たんです。当時、沖縄の音楽がJ-POPとして全国的に流行していて、地元の若者たちが地域の固有文化とエンタメを地続きのものとして楽しむ姿が新鮮でした。ひるがえって自分を見たとき、「西洋生まれの油絵を必死に描いて、現代美術をやるなんて変だ。自分の足元にある固有の文化を大切にすべきだ」とハッとさせられたんです。それで受験直前に、勝手に志望を「日本画コース」に変えました。親にはすごく怒られましたけど(苦笑)。
東:ある種、海外の文化にさらされる境界である沖縄に触れたからこそ、逆に日本回帰へのスイッチが入ったというのは興味深いです。
山本:実は、子供の頃にアメリカやスウェーデンに住んでいた経験があり、コミュニティで「所在のなさ」を常に感じていました。だからこそ根底にあった「自分は日本人である」という意識が、沖縄をきっかけに一気に溢れ出たのかもしれません。
琳派と究極の推し活

左から 山本太郎《Flowers Iris 1red 1orange 1yellow 2purple》、《Flowers Iris 1pink 1yellow 1orange 2red green background》 2024年 和紙にシルクスクリーン(モノプリント)
——山本さんの作品のルーツである「琳派」の魅力はなんでしょう。
山本:一言で言うと「非常にわかりやすい」ことです。浮世絵よりも早くアートが“民主化”された形であり、「江戸時代初期のポップアート」だと思っています。それまでの絵画は権力者のものでしたが、平和な江戸時代になり、経済力を持った京都の町衆が「自分たちが楽しめるアートが欲しい」と生み出した。現代の町衆である僕らがシンパシーを覚えるのは当然なんです。
東:琳派の作品には遊び心がありますよね。少し前に「木島櫻谷展」を見に行きました。近代から戦後にかけて民間での芸術批評が盛り上がっていた面白い時代で、豊かな民間文化が続いていた。だからこそ、今こうして山本さんが琳派を現代にアップデートし、現代アートとして世界に羽ばたいていく姿にはすごく期待したくなります。

山本太郎《IRIS Garden ki》 2026年 紙本銀地着色
——過去の琳派の巨匠らは、最先端の流行を取り入れるクリエイターであり、アートディレクターのような存在ですよね。今生きていたら、間違いなくスマホやMacをモチーフにしていたはず。山本さんの作品は「型」というより「スピリット」を継承していると感じます。
山本:そう言っていただけると嬉しいですね。琳派の面白い特徴は、世襲制ではなく、過去の巨匠を真似る「リスペクトの連鎖(私淑)」で続いている点です。俵屋宗達の100年後、尾形光琳がその絵を見て「真似しよう」と。さらに100年後、酒井抱一は光琳が好きすぎて、光琳の最高傑作《風神雷神図屏風》の裏面に勝手に自分の絵(《夏秋草図屏風》)を描いたり、光琳のお墓を自分で建てたりしている。今の感覚で言うと、ファンが推しのアイドルの功績を称えて勝手にお墓を作っちゃうような、常軌を逸した熱量なんです(笑)。実は僕も、光琳の命日である6月2日のお墓参りには定期的に参列しているんですけどね。
東:究極の推し活ですね(笑)。ただ形を真似るのではなく、先輩たちの精神性を追いかけるスピリットの継承こそが琳派の真髄なんですね。
日本らしさって?

——東さんはご自身の制作において、何か変化や悩みはありますか。
東:私はフランスで油絵を学び、帰国後もその手法で描いているのですが、活動する中で「日本らしさ」を求められることに少し悩んでいて……。自然に日本的な要素を取り入れるにはどうすればいいでしょうか。

左から 東留伽《Bloom》 F10号、《Aphrodite》 F10号
山本:東さんはグスタフ・クリムトがお好きなんですよね。実はクリムトこそ、ものすごく日本美術(ジャポニスム)の影響を受けているアーティストです。金箔の多用や、服の模様を完全に平面処理する手法など、すごく日本的です。だから、東さんが「クリムトから日本文化を逆輸入的に摂取する」というのは、実はすごく理にかなっています。
東:クリムト経由で……目から鱗です。
山本:歴史を俯瞰すると、日本と西洋のアートは常に「キャッチボール」を繰り返しています。ゴッホらが浮世絵を熱狂的にコレクションした一方で、葛飾北斎なんかは西洋の遠近法を猛勉強して作品に取り入れていました。日本の伝統絵画に遠近法がミックスされたものが海外に渡ったからこそ、ヨーロッパの人たちも文脈が通じて受け入れやすかった。そして今度は、日本の洋画家たちが印象派を学ぶ。この行き来がずっと続いているんです。だから東さんがフランスで学んだ油絵のなかに自然と日本のエッセンスが混ざり合うのは、歴史の延長線上にあるごく自然なことですよ。

——お二人ならではの鑑賞の楽しみ方はありますか。
東:私の鑑賞スタイルは「暴飲暴食」です(笑)。キャプションを一枚ずつ読むのではなく、まずは展示室を小走りくらいのスピードで1周して、全体を身体に摂取する。そこでセンサーに引っかかった好きな作品があれば、もう1周してじっくり見にいきます。1点ずつ真面目にエネルギーを使っていると感性がしんどくなるので、フレッシュな状態で出合うためにそうしています。
山本:そのワードセンス、最高ですね。でも合理的だし、僕もやります。展覧会にはネタバレがありませんから、最初に出品リストをバッと見て全体の構成やピークを把握したほうが、現代人にとっては圧倒的に見やすかったりします。
心地いい文化のグラデーション


――2026年8月に開催される山本さんの個展の見どころを教えてください。
山本:今回は、江戸のポップアートだった浮世絵をベースに、ポップアートの色彩を掛け合わせた「NEOUKIYOE」という最新シリーズを中心に展示します。誰が見てもパッと伝わる日本の絵をベースに、とっつきやすい色合いにしていますので、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいです。
――山本さんから見て、日本の文化状況はどのように映っていますか。
山本:文化的には「いい具合に心地よく混ざり合っている」と感じます。朝はパン、昼はインスタントラーメン、夜は白ご飯と味噌汁。僕らにとってはごく自然で心地いいですよね。さまざまな文化がグラデーションのように混じり合っている。
東:ポジティブに捉えれば「着脱可能なアイデンティティ」を好きに選んでミックスできる豊かな時代。そもそも日本の「八百万の神」の世界観自体が万物を受け入れるスタンスですから、この現状こそが最も日本的なのかもしれないですね。

左から 山本太郎《Pink×Blue Great Wave》 2024年 和紙の上にシルクスクリーン、《Mint green Mt.Fuji with red thunder》 2024年 和紙の上にシルクスクリーン(モノプリント)
——東さんも個展のご予定があるとか。
東:私は2026年8月に大丸京都店で「お盆の時期に花自在」というテーマで個展を開催します。お盆という“あの世とこの世の境界”があやふやになる時期特有の、ふわっとした瞬間の儚さや美しさを人物画を中心に表現したいと思っています。
山本:告知でもアナウンサーの力量を見せてもらって感動しました(笑)。実は僕の方は、2029年が「活動30周年」にあたるので、これから縁のある土地──熊本、秋田、京都で大きめの巡回展覧会をやりたいなと企画しています。
東:それは楽しみですね!
山本:あと、実は趣味で能楽をやっていまして、30周年のスピンオフとして僕自身が「シテ(主役)」になって能を舞うという野望を企んでいます。尾形光琳も能が大好きで謡本の表紙絵を描いていました。そういったパフォーミングアートと平面絵画が越境してつながっていた豊かな文化を、令和に再現したい。30周年を超えたら、東さんのように、海外へ向けてしっかりと作品を発信していきたいですね。
東:琳派のスピリットが、能という形でも現代に蘇るんですね。本日は本当に楽しいお話をありがとうございました!

Information
山本太郎展 NIPPON POP
■会期
2026年8月6日(木)→8月12日(水)
■営業時間
10:30~20:30(※最終日は18:00閉廊)
■会場
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5階
■入場料
無料
Information
東 留伽 展 花自在 -Entre les mondes
■会期
2026年8月12日(水)→8月18日(火)
■営業時間
10:00~19:00(※最終日は17:00閉廊)
■会場
大丸京都店 6階 アートサロンESPACE KYOTO
■入場料
無料
ARTIST

山本太郎
ニッポン画家
1974年熊本生まれ。2000年京都造形芸術大学卒業。 大学在学中の1999年に、寺社仏閣とファーストフード店が至近距離で混在する京都にインスピレーションを受け、伝統と現代、異質な文化が同居する「ニッポン画」を提唱。日本の古典と現代の風俗が融合した絵画を描き始める。 ニッポン画は3つの柱で表される。それは「日本の今の状況を端的に表すこと」、「古典絵画の技法を使うこと」、「諧謔(かいぎゃく)をもって描くということ」。その作風は現代の琳派とも評される。 近年は浮世絵をポップアートのカラーイングで再構成した「NEO UKIYOE」という新しいシリーズに挑戦している。 秋田公立美術大学准教授と京都芸術大学准教授を経て現在は京都美術工芸大学特任教授。 2015年京都市芸術新人賞、京都府文化賞奨励賞受賞。
GUEST

東留伽
アナウンサー・アーティスト
朝日放送テレビのアナウンサーとして活動後、2026年に独立。 司会・ナレーション・トークイベントなど、知性と親しみやすさを併せ持つ進行を強みに、言葉を通じた表現活動を行っている。 作家としても国内外で作品制作・発表を続け、2023~2024年にはフランス・パリを拠点に芸術研鑽を積む。 現在は東京大学大学院 美学芸術学研究室に所属し、理論と実践の両面からアートに携わっている。主な出演歴:「朝だ!生です旅サラダ」「新婚さんいらっしゃい!」「正義のミカタ」ほか。語学・資格:英語(IELTS 7.0)、フランス語(B2) 趣味・特技:旅行、社交ダンス(ラテン)、美術館・ギャラリー巡り。
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