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INTERVIEW
2024.11.06
若手アーティストのための場所をつくりたい━━学生スタートアップ「artkake」の挑戦
Text / Shiho Nakamura
Edit / Eisuke Onda
岐阜や名古屋の大学、大学院生を中心に結成された学生スタートアップ「artkake」(アトカケ)。東海地方を中心に若手アーティストのための発表の場所を、フレッシュな視点でつくり出す活動をしている。
設立して2年が過ぎ規模を拡大している中で、地元の百貨店と協働した新しい挑戦も控えているという。今回はメンバーにこれまでの活動や、今後の展開を聞いた。
学生が集まってできたスタートアップartkakeとは
取材に協力してくれた学生スタートアップ・artkakeのメンバー。写真左からプロジェクトリーダーの古川竜也さん、PR担当の三村友里菜さん、代表の夏目一輝さん、インターンの中埜すみれさん
ーー2022年9月にartkakeを設立した経緯を教えていただけますか?
夏目:やりたいことがわからなくて進路を迷っていた時期に、愛知県の芸術大学に通っていた姉の卒業制作展を訪れたんです。僕自身はあまりアートについて詳しくなかったのですが、作品を観た瞬間に、率直にすごいと感動しました。こんなにも自分のことを表現できる人たちが同世代にいるということに感銘を受けて。ところが、作品を制作してもほとんどが展示されずに保管されていたり、捨てられたりしてしまうことを知って、どうにかできないかと感じたことが大きなきっかけとなりました。
代表の夏目一輝さんは現在岐阜大学大学院の2年に在籍。三村さんとは学部時代に所属していた「起業部」で出会い、他の仲間とは今回取材を行ったSTATION Aiというスタートアップ支援拠点や、東海地区の大学コンソーシアムによるTongaliという起業家育成プロジェクトを通じて知り合った
ーーもともと起業を視野に入れていましたか?
夏目:僕はもともと災害復旧・復興のボランティアをやっていて、社会貢献活動を続けていきたいと考えていたんです。そんな折に、アクセラレーションプログラムという事業の成長・拡大支援を目的にした大学のプログラムに参加して、ボランティアだけでなく起業という形でも社会に貢献することができることを知りました。ボランティアには限度があることも感じていたので、自分の中で起業が選択肢として広がりました。
ーーartkakeの根幹となる事業について教えてください。
夏目:artkakeでは、世界最大級のアーティストマネジメント会社になることを目標に掲げています。いちばん注力しているのが展示機会の創出ですね。まずは、アーティストが展示する機会をどんどん生み出していくことが僕たちの大きな役割だと思っています。
三村:アートの大衆化に焦点を置いて、あまり親しみがない人たちにもアートを楽しむ門戸を開いていきたいです。美術館や展示スペースの枠を超えて、普通ではやらないような場所で展示するなど作品が見られる場所と機会を増やしたいですね。
岐阜大学の学生の三村さん。起業部の活動で夏目さんと出会い、設立当初からartkakeに参加。「夏目さんはじめ当時いたメンバーが頑張っているのを見て、最初は応援したい、サポートしたいという気持ちが大きかった。でも、アーティストや企業の方々とお話しさせていただく機会が増え、自分の中でだんだん熱くなってくるものがあって。気づけば一緒にやっていきたいと思うようになっていたんです」と思いを語ってくれた
リアルな場でリアルな声を聞くこと
アトコレを開催したときの様子
ーー2023年8月にはJR名古屋駅で「メイエキ+アトコレ 駅の美術館」というイベントを開催し、今年2月には名鉄瀬戸線の清水駅と尼ケ坂駅を繋ぐ商店街で、街をアートで彩る「KANSEI SAKUMACHI」も開かれました。多くの若手作家が参加されていますがどのように募集をして、消費者へはどのように周知したのでしょうか?
夏目:基本的にインスタグラムなどのSNSで参加募集の発信をしています。僕らが協働する主な層は、現役大学生~卒業後3、4年の若手作家が多いので、やはりSNSでのアプローチが早いんです。消費者向けのアプローチとしては展示場所ですね。三村が前述したように、普段展示しないような場所をあえて選んで、「ここにアートってあんまりないよね」「ここにあったらどうなるんだろう」と、実験的な取り組みをしたいと考えています。
三村:「KANSEI SAKUMACHI」では商店街とコラボレーションさせていただいて、どのように街を楽しく変化させることができるのかを考えながら、足繁く通ってはテナントや通行人の方々に話を聞いて、街の人にフォーカスすることを大事にしましたね。
KANSEI SAKUMACHIの展示の様子
ーー地元の人と対面でコミュニケーションをとることを大切に進めていったのですね。実際にやってみて、次に活かすための課題や改めて自分たちの強みだと感じたことはありますか?
夏目:関わるアーティストや作品数が多くなるほど、プロジェクト管理の課題を実感しました。多くのアーティストを巻き込んでいくと規模感が変わってくるので、マネジメントの改善に取り組んでいるところです。また、僕たちの強みは、対面で交流する機会をすごく大事にしていること。例えばイベント後に「おつかれさま会」を開くと、参加アーティストから良かったことや改善すべきことをリアルに聞くことができます。会期中には街の人に「道が明るくなっていいね」と声をかけてもらったり、やはり対面でないと得られない反応があるので、今後も強みにしていきたいですね。
ーーartkakeは、アーティストと民間企業などとの仲介役となって、若い世代の新たなアイデアを社会へ繋げていく役割を担っていますね。アートの面白さやアートが社会にできることの可能性についてどう考えていますか?
三村:アートには繋げる力があるのではないでしょうか。例えば、人と人をいきなり同じ場所に呼んで「では、しゃべってください」と言われても表面上の会話になってしまうものですが、アートを介すると、「そうやって感じるんだ」「そんな一面があるのか」と感じたり、ときには突拍子もない何かが生まれることもあります。それは新しい自分を発見できるということでもあると思います。
名古屋工業大学の学生の中埜さん。インターンとして活動に参加。三村さんとともに、アーティスト同士の交流会の企画を盛り上げるキーマンでもある
ーーこれまでの仕事で印象に残るエピソードを教えてください。
中埜:やはり、アーティスト同士の交流の中で作家が話していたことは印象的です。交流会で、アーティスト活動をやめようと何度も思ったことがあると言う人がたくさんいたんです。でも、同じ思いを持って闘っている作家と交流したり、応援してくれる人と出会ったことで、制作活動を諦めずに新しい展示の機会に繋がったと聞いたときはすごくうれしかったです。
中部大学を今年卒業して新卒で入社した古川さん。artkakeでは全プロジェクトのリーダーを担う、初のフルタイムとなるメンバーだ
古川:僕は業務に関わり始めてあまり時間は経っていないのですが、最初の頃は、アーティストには内向的な方が多いんじゃないかという先入観を持っていたためか、初対面では話をうまく引き出せないことが多かったんです。でも最近、打ち解けて話すことができるようになって。リアルを大事にしているからこそ、運営側とアーティストとの関係値ができていくのだと実感しています。
artkakeではアーティストへの応援度合いを可視化するアートシェアプラットフォームの「Enushi」の開発・運営もしている
百貨店とタッグを組んだ、これからの取り組み
――大丸松坂屋百貨店では、ベンチャー企業を支援する取り組みを行っています。東京だけではなく日本全国のベンチャー企業へ目を向け、有力な企業の発掘を目指しています。その一つの新たな取り組みとして、松坂屋名古屋店の一部リニューアルオープンにあわせて、artkakeとタッグを組んだスペースが新設されるとのことです。どのような経緯があったのでしょう?
夏目:以前、僕のプレゼンを松坂屋の担当の方が聞いてくださったことを機に声をかけていただいて、プロジェクトがスタートすることになりました。最初は、フロアにあるブースを情報発信していく場にしたいということをお聞きしたんです。ここではもちろん従来どおりの展覧会も企画していくのですが、僕たちがどうアーティストの役に立てるのかや、お客さまにどんな価値提供ができるのかを考えていくうちに、単純な情報発信というよりも体験を通じたコミュニティを生み出していくことが求められているのだ、と思いました。お客さまとアーティストが交流することで、アーティストにとって成長機会に繋がるようなプログラムを発信できたらいいのではないかと、松坂屋さんと話しながら進めてきました。
――プログラムの内容とは?
夏目:主に芸大生や若手作家を対象にした、創作スキル以外の必要な知識を学べるプログラムを予定しています。3ヶ月ほどを1サイクルとして、講義やピッチコンテスト、ワークショップなどさまざまに組み合わせながら、キャリアアップや機会創出のサポートができたらと考えています。講義では、松坂屋さんの販売員の方に話を聞いたり、また、年齢が近いアーティスト同士でも、既にマーケットで活躍している作家の話を聞くことができたら面白いのではないかと。
――ピッチコンテストは一般の人も見られるのですか?
夏目:はい。簡潔に言えば、制作したアート作品についてのプレゼンです。でも、通常は1対1で聞けることはあっても、なかなか公で見てもらう機会はないじゃないですか。でも実は他の業界だと当たり前のことでもあると思うんです。このアイデアは、起業家支援のプログラムやコミュニティなどで、起業家の方々が年齢の近い起業家との交流を通じていろんなことを教えてもらったという話を聞いたことにあります。それをアート界に落とし込んだらどうなるのか?と考えて。
――外部の機関などとも連携をとっていくのでしょうか?
夏目:主に東海地区の芸術大学と提携していきたいと考えています。講義によっては大学を訪れることも想定していて。百貨店さんと芸術大学との繋がりは既にありますが、僕らが入ることによって、学生からの百貨店への目線が変化したり、より身近に繋ぐことができたりすると思うので、付加価値にしていきたいですね。
――地元のコミュニティを大事にすることを考えているのですね。
夏目:名古屋には芸術大学もあって、アートの土壌があると思います。しかし、アウトプットとしての出口はどうか?と。そこにグラデーションを持たせながら仕組み作りをしていくことが僕たちの使命でもあり、新しい関わり方やアプローチを試す可能性を広げていって、固定概念に縛られないことができると思います。その中では、これまでアート業界があまりオープンにしてこなかったことをみんなで開示していくような会も設けたいです。焚き火を囲んで話し合うようなイメージで、誰もが発言できるような雰囲気をつくりたいですね。
Information
artkake ART LABO(アトカケ アートラボ)
アートをきっかけに「人と人がつながっていくことをめざす」岐阜大学の学生スタートアップである「artkake(アトカケ)」が運営する「artkake ART LABO(アトカケ アートラボ)」が、松坂屋名古屋店に新たにオープンします。
このスペースでは、若手アーティストがより広く世の中に知ってもらうきっかけをつくるとともに、地元アーティストの育成・支援につながるプログラムを実施していきます。
■場所
松坂屋名古屋店本館8階 ART HUB NAGOYA
(愛知県名古屋市中区栄三丁目16番1号)
※2024年12月10日オープン
松坂屋名古屋店のHPはこちら
DOORS
artkake(アトカケ)
株式会社artkake。2022年創業。美大生をはじめとする若手アーティストに対し、発表の機会提供をおこなっている岐阜大学の学生スタートアップ企業。「アートをきっかけに、アートにきっかけを。」というミッションのもと、ボトムアップ型のアート界の形成を目指す。松坂屋名古屋店に展開する「artkake ART LABO(アトカケ アートラボ)」では、若手アーティストがより広く世の中に知ってもらうきっかけをつくるとともに、地元アーティストの育成・支援につながるプログラムを実施していく。
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