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2022.10.05

「NFT」は今後どうなっていく?未来の楽しみ方は? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.9

Interview&Text / Mami Hidaka
Edit / Moe Ishizawa
Photo / Yuri Inoue
Illust / Wasabi Hinata

19世紀の画家、エドゥアール・マネの絵画に魅せられたことをきっかけに、現在までに2冊の美術関連書を上梓するほどアートを愛する和田彩花さん。現在は大好きなフランスに留学中で、古典絵画から歴史的建築、現代アートまで、日常的にさまざまなカルチャーに触れているようです。

Vol.7から3回にわたって和田さんとお話しするテーマは、昨今話題の「NFT」。いくらでも複製できてしまう画像や音楽、映像などのデジタルデータに唯一性を保証する画期的な技術です。2021年は「NFT元年」「NFTバブル」とも言われるほどインターネットを革新し、経済を動かし、アートシーンを大きく盛り上げたNFTですが、一般的にはまだそれほど浸透しておらず、いまだに「NFTって何?」と首を傾げる人も多いのではないでしょうか。

実は和田さんもその一人。アイドルや美術のお仕事の場で「NFT」というキーワードが挙がるようですが、どういった可能性を秘めた技術なのかをなかなか想像できなかったようです。

「和田彩花のHow to become the DOORS」は、今更聞けないアートにまつわる疑問やハウツーを、専門家の方をお呼びして和田彩花さんとともに紐解いていく連載シリーズ。お金ではかれない価値を秘めたNFTアートとはどのようなものか? どのようなNFTアートが美術史に残っていくのか? Vol.7、Vol.8に引き続き、今回もNFTに関するさまざまな疑問を紐解くべく、2021年に日本初のNFTアートのオークションのキュレーターを務めた文化研究者・山本浩貴さんとの対談の様子をお届けします。

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「NFT」の長所と短所って?メタバースと相性がいい? / 連載「和田彩花のHow to become the DOORS」Vol.8

  • #和田彩花 #連載

お金だけではかれないものがある

和田:これまでNFTアートの投機的なイメージに引っ張られてしまい、その本質や可能性に気づくことができませんでしたが、今回の対談を通じて、美術史・文化史の観点からNFTについて考えられるようになりました。とはいえ世間一般的には、今後もしばらくNFTアートには投機的なイメージがつきまとうのかもしれません。

山本:おっしゃる通り、アートの価値をお金以外の何かではかろうとしても、アートとマーケット(市場)が切っても切り離せない関係であることは間違いありません。特に、新しい技術であるNFTアートのマーケットはどうしても投機的な対象になりがちです。NFTアートが何十億で売買されたというような、お金に関するセンセーショナルな部分ばかりが取り上げられる中で、作品に内包される美術史へのアプローチや社会的・政治的な意義といった金銭以外の価値はどうしても抜け落ちていってしまいますよね。

和田彩花さん、山本浩貴さん

和田:山本さんは、2021年にNFTアートのオークションをキュレーションされていましたが、どのようにアートとお金の関係について考えていますか?

山本:僕は金銭的な価値を無視するのではなく、お金以外にもさまざまな価値があるという前提で、それらが一つのアートとして豊かな層を成しているかどうかを重視します。アーティストにとっても、お金でははかれない異なる価値をどのように作品に混ぜ込み、価値のレイヤーを増やしていけるかどうかが大事な課題ではないでしょうか。

NFTアートのオークションも、これを強く意識しながらキュレーションしました。出品作家のデヴィッド・オライリーは、デジタル技術を用いて新しい価値を模索しているコンセプチュアルなアーティストです。

 

NFTアートが揺るがす、価値の概念

山本:価値といえば、世界的アーティストのダミアン・ハーストの新作『The Currency』(2021年)は、NFTを通じて価値とは何かを問う作品でした。

和田:ダミアン・ハーストって、サメや羊をホルマリン漬けで保存したり、蝶やハエの死骸を使ったり、衝撃的な作品をつくってきたアーティストですよね? 今年5月まで国立新美術館で開催されていた、『ダミアン・ハースト 桜』展のイメージを強く持たれている方も多いかもしれませんね。

山本:はい、実はコンセプチュアル・アーティストとしても評価されている作家ではあるのですが、一般的には炎上商法的な手法のイメージが強い現代アートの巨匠です。新作の『The Currency』は1万枚もあり、そのすべてが一点もののドットのペインティングなのですが、ダミアンはすべてNFT化して2,000ドルで販売しました。その1年後に作品の所有者に対して「NFT作品を原作絵画と交換してNFTを破棄する」のか、「NFTを保持して原作絵画を破棄する」のか究極の選択を迫ったプロジェクトのような作品でした。

『The Currency』に関するドキュメンタリー映像

 

和田:ダミアンらしい批評的なコンセプチュアル・アートですね。その二つなら私は原作絵画を選びますが、もしかしたらダミアンの思うツボなのかも……?(笑)。反抗心からあえて自分の意思とは逆の選択を取りたくもなりますね。実際の結果はどうだったんでしょうか?

山本:NFT派と原作派の比率はほぼ50:50でした。カウントダウンが終了するまでに合計5149個、全体の約半数のNFTが破棄され、その所有者は代わりに原作絵画を手に入れることができたようです。

前回、「技術とコンセプトがある種の緊張関係を持つようなNFTアートをもっと見てみたい」という話をしましたが、この作品はまさにそうですね。非常にコンセプチュアルで、アートの反骨精神を内包したNFTだと思います。

和田:面白い! 画面越しに見るNFTは、原作絵画と違ってそこに実体がないにもかかわらず、約半数の人は「何かある」ということへの喜びや価値を見出し、自分が頑張って働いて得たお金を払って所有するんですもんね。NFTアートには、所有の概念だけでなく価値の概念を問いかけたり、揺るがしたりしていく力もあることがわかります。

山本:あとは、NFTは間違いなく物理的な破損や保存には強いです。原作絵画の場合は、もし誰かがそれを破ってしまえば終わりですが、データであるかぎりはそう簡単に破損しません。安全に後世に語り継げるかという意味では、おそらくデータにしておいたほうが自分の死後も孫と、孫の孫の世代くらいまでは価値あるものとして保持できるはずです。

一方で、たった10年前のデジタルアートでも規格が違うため再生できないことがあり、いろんな美術館やアーティストが大変な思いをしています。デジタル技術が急速に発展し続ける中でデジタルアートの持続可能性についても盛んに議論されてきました。

和田:まさに一長一短……。所有の概念や保存形式すべてに、一人ひとりの価値基準が反映されますね。

 

コンセプチュアルなNFTアートが発展する未来を願って

山本:和田さんは19世紀フランスの美術史を専攻されていたとのことですが、どういう作品が歴史に残り、どういう作品が歴史から消えていくと思いますか?

和田:素晴らしい作品をつくるだけではなく、運よく評価される機会に巡りあえた人が名を残していると思います。あとはやはり、当時の価値観に沿っている作品が評価されてきたのではないでしょうか。

山本:たしかに19世紀フランスでは、ポール・ゴーギャンやエドガー・ドガの作品が高く評価されていましたが、その後時代が変わるにつれてゴーギャンのオリエンタリズムや、ドガの女性に対する差別意識への批判も出てきましたね。美術史は時代の変化や人間の価値観のアップデートとともに移ろいゆくものなので、その美術史にNFTを位置づけることはなかなか難しいことだと思います。

和田:難しいですよね。リアルタイムでは、NFTアートが美術史にどう位置付けられるかまだまだ見えてこない部分も多いです……。山本さんはどういうNFTアートが美術史に残ると思いますか?

山本:美術史に残るためには、特に現代美術においては批評や議論を促すような学術的な要素と、マーケットでも価値づけられるような作品の強度、そして美術館にコレクションされるなどの文化的な評価の3つが重要です。NFTアートも同様に、この3つの条件が揃ったときに美術史に残っていくのではないでしょうか。これから日本の美術館にはNFTアートを積極的に取り上げてほしいし、専門家は学術的に論じていってほしいし、批評の軸を持った適切なマーケットプレイスも増えてほしいですね。

和田:別分野の研究者や作家の方が美術史以外の文脈と紐付けて、接続の回路を大きいものにしていくことも重要なのかもしれませんね。今後NFTは、アーティストが表現活動を続けやすくしたり、コレクターがアーティストを直接的に応援・交流したりするためのプラットフォームとして民主化していくのでしょうか。

山本:おっしゃる通り、NFTはどんどん社会に定着していくと思います。ただ良くも悪くもコアなものが民主化すると、オルタナティブでありアバンギャルドな表現を生み出すことはどんどん難しくなっていきます。

一説では、アメリカのロックバンド「ニルヴァーナ」の故カート・コバーンは、オルタナティブな音楽をやりたかったようですが、熱狂的な人気のあまり、誰も買わないと思うような複雑な曲ばかりを収録したアルバムですら売れてしまって、コバーン自身はどうしたら先鋭的でいられるかわからなくなり、自死してしまうほどに追い詰められていったと言われています。

和田:なるほど……。では先ほどのダミアンのように、ある種の問いかけをしていくコンセプチュアルなNFTアートは発展しづらくなってくるということですね。

山本:僕は誰もがNFTを当たり前のように使う未来と並行して、同じ世界にあるものとして、コンセプチュアルなNFTアートが発展していく未来もあってほしいです。NFTアートを通じて、様々な視座を持ち、世界を多角的に眺めることを可能にするために、アーティストだけでなく、僕のような研究者や批評家、そして美術館がそれぞれの努力をしていくべきだと思っています。

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連載『和田彩花のHow to become the DOORS』

アートにまつわる素朴な疑問、今更聞けないことやハウツーを、アイドル・和田彩花さんが第一線で活躍する専門家に突撃。「DOORS=アート伝道師」への第一歩を踏み出すための連載企画です。月1回更新予定。

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和田彩花

アイドル

アイドル。群馬県出身。2019年6月アンジュルム・Hello! Projectを卒業。アイドル活動と平行し大学院で美術を学ぶ。特技は美術について話すこと。好きな画家:エドゥアール・マネ/作品:菫の花束をつけたベルト・モリゾ/好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。2023年に東京とパリでオルタナティヴ・バンド「LOLOET」を結成。音楽活動のほか、プロデュース衣料品やグッズのプリントなど、様々な活動を並行して行う。
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GUEST

山本浩貴

文化研究者、アーティスト

1986年千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツにて修士号・博士号取得。2013~18年、ロンドン芸術大学トランスナショナル・アート研究センター博士研究員。韓国のアジア・カルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、21年より金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻・講師。著書に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社 、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)。

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