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2025.04.02

アーティスト 奥田雄太 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.35

Photo / Kyouhei Yamamoto
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回登場するのは「偶然性」に重きを置いた”花”の作品を中心に発表を続けている奥田雄太さん。主宰するyutaokuda studioで話を聞いた。

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アーティスト 國久真有 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.34

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:奥田雄太

日本とイギリスにてファッションデザインを学んだのち、ファッションブランドでデザイナーとして活動。2016年にアーティストに転向した奥田雄太は国内での個展やグループ展に精力的に参加し、制作と発表を続けキャリアを築き上げている。 計算した線のみで構成された細密画で表現していたが、ここ数年「偶然性」に重きを置いた”花”の作品を中心に発表を続けている。 さまざまな色味で表現される花はポップなイメージが強いが、花びら一つ一つに緻密な線描が施されている。

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《Colourful Black》


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《Beautiful Foodchain》 


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《with gratitude》 

 

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奥田雄太さんに質問です。(とに〜)

奥田さん、ご無沙汰しております。いつぞやは大変お世話になりました。別件の取材中にたまたまお会いして。自分が若い頃に特にお世話になったファッションブランドのデザイナーだったという異色の経歴と、オリジナリティ溢れる作品に興味を惹かれ、ついつい引き留めてしまい、長々と立ち話をしてしまいましたね。まだまだお聞きしたいことがたくさんあったのですが、それはまたコロナが明けた際に、飲みに行きましょうという流れになりましたっけ。そういえば、結局まだ実現していないですね。。。というわけで、ひとまずこの場を借りて、奥田さんに聞きたかったこと、改めて聞きたいことを質問いたします。どうぞよろしくお願いいたします。


Q01. 作家を目指したきっかけは?

作家を目指したきっかけは、アーティスト活動をする作家に対しての嫉妬心です。
ある作家と出会ってアーティストの活動を初めて意識しました。そこで、「羨ましい」という嫉妬心を抱く自分に気づいて、いてもたってもいられなくなって作家を目指すようになりました。

もともと「絵を描くこと」と「ファッション」が好きな少年で、作家になることは子どもの頃からの夢だったわけではありませんでした。職業選択をするときには、作家になるイメージが湧かなかったのもあって、ファッションデザイナーを選びました。デザイナーをする中で自分のやりたいことが明確になっていきつつ、ある作家との出会いがあって、作家を目指すことになりました。

ロンドンにあるインスティチュート・マランゴーニのファッションデザイン科を卒業後、ブランド「yutaokuda」を立ち上げた奥田さん。その後、ファッションブランド「TAKEO KIKUCHI」にてデザイナーとして勤務し、2016年に退社。アーティスト活動をスタートさせた。「父親から1年で前職と同じだけ稼げなければ、キッパリ諦めろと言われて。1年間、とにかく死ぬ気で活動しました。喫茶店や画材屋に飛び込みで絵を展示させて欲しいと営業をしたり、ポスティング。それからグッズ制作まで。どうやったら絵を買ってもらえるのか、そのための1歩はいきなり難しいかもしれないから、0.1歩を考えてとにかく行動していました」

Q02. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

ファッションの存在です。でもファッションに影響を受けるきっかけは「好きな子にモテたい」という感情がベースにありました。好きな子に「オシャレだね」と言ってもらいたくて、ファッションに興味をもっていきました。当時は作品を作っていたわけではなかったので、自己表現=オシャレだったため、それを褒められると自分が褒められていることにつながり、自分の一番のモチベーションになっていました。

特に、アレキサンダー=マックイーンに影響を受けています。


Q03. パッと見は荒々しいストロークで描かれた絵ですが、近づくと繊細な線が見て取れます。この独自のスタイルが生まれたきっかけは何ですか?

ルーツは細密画にあるので、ペンが主役の作品を制作しています。細密画をやっているうちに、「偶然性」が課題になりました。そのため、墨の滲みが偶然性につながるのではないかと考えて、墨の滲みから動物等に結びつけた作品を制作していました。その次に出てきたのが「色」の課題です。そこで、カラフルな動物を描くようになり、コロナ禍で花をモチーフにした「with gratitude」の作品が生まれることになります。

「偶然性」「色」の課題を解決して、ペンが主役の作品を作るために、アクリル絵の具という画材に出会うことになります。

広々としたスタジオの中でも大きな存在感を放つ《with gratitude》


Q04. 花をモチーフに選んだ理由は何ですか?

テーマが「with gratitude」で、感謝を伝えるために、幼少期から花を贈っていたのでモチーフになりました。そもそもこのテーマは、コロナ禍で生まれたテーマで、当たり前が当たり前ではないことに気づいて、当たり前に感謝するようになったために、それを作品に落とし込もうとしたところから始まります。また、「with gratitude」以前は「beautiful food chain」をテーマに動物・昆虫を描いていたのですが、この「美しき食物連鎖」というテーマも花から始まる食物連鎖のストーリーであり、これまでの活動と繋がる部分がありました。

「背景に関しては、そこまでこうあるべきというこだわりはありません。ですが、背景によって花の色が決まるため、背景は多様な色を使いたいと思っています」。作品は《-with gratitude- Abstract Bouquet》


Q05. 1枚の絵にたくさんの色が使われていますが、配色はどのように決めていますか?

感覚です。ただ、感覚だけだと色癖が出てしまうため、「ブレインパレット」というシリーズの作品を別で制作しており、そこから配色を抽出し、新しい配色を作るようにしています。ブレインパレット自体は、絵の具に紙を巻いて色がわからないようにして、自分が意図しない色をキャンバスに作るようにしたり、そのときに美しいと思った色を感覚で選んで使っています。

《Brain Palette》


Q06. 女性をモチーフにした作品のほとんどで、女性がこちらを見つめているのはなぜですか?

大人の自分への戒めのため、子どもにも見える女性にも見える人がこちらをじっと見ているのです。

この作品は「Children watching you」という、コロナ禍で生まれた作品です。大人のモラルが低下していた中で、自分自身もその大人と一緒であることに気づいた瞬間がありました。どうしたら、恥ずかしくない大人でいれるか考えた時に、自分だったら、子どもや妻に見られていると思うことが、自分の背筋を伸ばし襟を正すことにつながると考えました。そこで、この作品が生まれました。モチーフは、子ども(息子)と女性(妻)をミックスしてデフォルメした表現になっています。

《Children Watching You》


Q07. キャンバスの張り方が独特なものがありますよね。なぜですか?

私の作品はサイドにも書き込みがある作品なので、サイドの表現が見やすくなるのがラウンドのキャンバスなので、変形キャンバスを使用しています。

スタジオに飾られていた《Children Watching You》を見ても、サイドまで色彩が豊かである


Q08. 制作中で一番好きな作業は何ですか?

ルーツは細密画にあるので、かつては線画の作業でしたが、今はアシスタントに任せている部分になります。なので、今は、お花を描く作業が一番好きです。その中でも完成に近づいた瞬間に「絶対良くなる!」とわかって、見えてきたとき、この瞬間が好きです。ちなみに完成は、感覚的に決めています。

キャンバスの指示を制作しているアシスタントの谷田浩巳さん。奥田さんのもとには様々なルーツを持つアーティストが集い、アシスタントとして活動。スタジオ内には彼らの作品の販売スペースも設けられている


Q09. 職業病だなぁと思うことは?

色を見るたびに配色で見てしまうことです。また、整理整頓をしてしまうことです。次の作業のためには整理整頓がとても大切だと思っているため、アトリエでも一日の終わりには必ず片付けをしています。


Q10. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

①2種類のエプロン:これはアトリエビジット等で他の人からの評判が良いアイテムです。

左はデニム地の初代エプロンで、右は現在奥田さんが愛用している革製の二代目

②2階の展示スペース:自分以外の作家にも展示してもらえるようになっていて、展示のチュートリアルができるような場所にもしています。

元々は銭湯&サウナだった建物をスタジオに改修した。展示スペースではアシスタントの展示が行われることもあり、その際のマージンはなく、収益は作家自身に還元されている

③アトリエの設計(レイアウト):作品に対してより時間をかけるために、導線を意識した設計(レイアウト)になっています。

奥田さんがアクリル絵の具を用いてペイントするスペースはとにかく色とりどりだ

手前の黒い机ではアシスタントが線画を施したり、スタッフの打ち合わせに使われたりする

絵を乾燥させるためのスペースも完備。キャンバスの下地の制作や、アクリル絵の具を塗った絵を乾かしたりするときに使用される

④ヘラ:自分の作品制作の工程がある程度決まっているので、そこに合わせてそれぞれ必要なヘラを使っています。


Q11. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

ファッションデザイナーをそのままやっていたと思います。ファッションをやっていた時は、やりたくない仕事もありましたが、今の作家としての仕事は、全ての仕事がアート活動のために必要な仕事なため苦とは思いません。天職だと思っています。


Q12. アーティストに転向後、ファッションデザイナー時代の経験が活きているなァと感じたことはありますか?

コミュニケーション能力など、社会人として当たり前の経験です。自分一人でできることには限りがあり、人との繋がりで成り立っています。制作は孤独なものだけれど、アート活動は人と関わります。ファッションデザイナーというより社会の中で社会人として学んだことが生きていると思います。社会で当たり前にされていることをアーティストが当たり前にできているとプラスの要素になります。

「デザイナーだった」というくくりで活きていることはそれほど多くはありませんが、美的感覚や色彩感覚など、ディティールや構造に関する感覚などはデザインの世界にいたこと、ファッションデザイナー時代に学んだものになります。

飛び散った絵の具も作品のように見えてくる


Q13. ほぼほぼ黒い服しか着ていない印象ですが、なぜですか?

作品を見せる上で自分は黒子です。身体も大きいので、自分がシンプルになることで(それでも目立っていることは自覚していますが)、作品の方に意識がいくようにしています。お花の茎を黒にしているのも、これと同じ理由です。特定の花ということを決めないために黒子としての役割、シルエットとしての役割として、茎を黒にしています。

ちなみに、細密画の時は普通におしゃれしていましたし、今でもプライベートだったら柄が多いです。


Q14. 作品が完成した時や個展が無事に終わった時などの自分へのご褒美は?

特にありません。作っている作品数や年間の展示数も考えると、常に次に向けて動いています。次に向けての絵を描いていること、アーティスト活動自体がご褒美です。アーティスト活動を続けられていることが奇跡のようなことなので、それが続けられていることはすごく嬉しいことです。なので、常にご褒美状態です(笑)

最近個人的に嬉しかったことは?と聞くと「第二子誕生!!女の子で超超可愛いんです!!」と奥田さん


Q15. “騙されたと思って1回試してみて”というものがあれば教えてください。

全然思いつきません。騙すつもりはないので、まずは当たり前のことを当たり前にやりましょう! 強いて言うなら、アーティストは夜型が多いけれど、朝型にした方が効率良いですよ。

確かに、エプロンめちゃめちゃイイですね! それ自体がもはや作品のよう! ファッションブランドを再始動させて、そこで販売してもらいたいくらいです。 と、それはさておき。実は他に聞きたい質問として、「花の絵はさまざまなカラーバリエーションがあるのに、なぜ茎の色はすべて黒なのですか?」がありました。質問数の関係で泣く泣くカットしましたが、まさか奥田さんが意識的に黒い服を着る理由と茎の色に関連があったとは! それも含め、回答から滲み出る奥田さんのアーティストとしての姿勢や哲学に、「創作活動とは生き様そのものである」ということを実感させられました。真摯にお答えいただきありがとうございました。with gratitude(感謝を込めて)。(とに〜)

Information


奥田雄太個展 with gratitude

■会期
2025年4月16日(水)~4月22日(火)  
10:00~19:00 ※最終日は16:00閉場

■会場
松坂屋名古屋店  
本館8階 ART HUB NAGOYA open gallery
(愛知県名古屋市中区栄3丁目16-1)

松坂屋名古屋店のHPはこちら
作品に関するお問合せはこちら

artist-identity_bnr

 

ARTIST

奥田雄太

アーティスト

日本とイギリスにてファッションデザインを学んだのち、ファッションブランドでデザイナーとして活動。2016年にアーティストに転向した奥田雄太は国内での個展やグループ展に精力的に参加し、制作と発表を続けキャリアを築き上げている。 計算した線のみで構成された細密画で表現していたが、ここ数年「偶然性」に重きを置いた”花”の作品を中心に発表を続けている。 さまざまな色味で表現される花はポップなイメージが強いが、花びら一つ一つに緻密な線描が施されている。彼自身、花に見えなくてもいいと語るそれは確かに具象としての花ではない。 作家が「自己をサルベージ(救出・救助)する」中でたどり着いた、幼少期の記憶がもととなっていると語る。 コロナ禍をきっかけに、当たり前と感じていたことが実は特別な出来事だったと気づき、「感謝を作品にしたい」という思いから「with gratitude」をテーマに作品を制作している。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

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