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2024.06.12

アーティスト にいみひろき 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.28

Photo / Gyo Terauchi
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は、アートディレクターからアーティストに転身し、「クリエイティブの消費」をテーマに制作するにいみひろきさんの背景に迫ります。

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アーティスト 足立篤史 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.27 はこちら!

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アーティスト 足立篤史 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.27

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:にいみひろき

多摩美術大学を卒業後、アートディレクターとして広告や、音楽、ファッションのアートディレクションを行いつつ作家活動を開始。 今日の大量消費社会、とりわけ、そこにおけるクリエイティビティの消費をテーマにした作品を制作している。 大量に生産され、供給され、そして時には廃棄される衣服や食品たちがある一方、現代はユーザーに消費を促すためにクリエイティブをも大量に生み出し、そして使い捨てている。 クルト・シュヴィッタースのメルツ絵画などの先行例を参照しながら、 そこに現代の産業と広告の関係性を持ち込み、消費されるクリエイティブたちを擁護するために描かれている。 社会から捨て去られた、あるいは時代によって使い古されたロゴやキャラクターを引用し、そして消費を象徴する最も現代的なアイコンとしてバーコードをフロントに登場させ、終わることのないクリエイティブの消費へのアイロニーとして描き出す━━それこそが作品のミッションであり、同時にこの時代に対する彼自身のステートメントでもある。

68DAC60C-F3BB-4FF5-ABF3-BAC3F6E3E5DB-min.JPG《Nature88_20231002》 acrylic on canvas 2023


three gunslingers-min《three gunslingers》 acrylic on canvas 2024
20240105mob-min
《20240105 mob》 Nylon,resin,Aluminum2024

 

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にいみひろきさんに質問です。(とに〜)

今回ご登場いただくのは、にいみひろきさん。アートディレクターとして広告業界でご活躍を続けていた中で、アーティストとして一から活動を開始されたそう。普通に考えたら、順風満帆な人生を送ったほうがいいに決まってますのに、あえて美術界という荒波に舵を切ったにいみさん。その生き様からしてすでにアートです。

そんな彼が何を考え、いかにして作品を生み出しているのか。そして、どんな人物像なのか。15の質問で迫りたいと思います。なお、にいみさんにせっかく回答頂いたこの記事自体がネットで消費されてしまわぬよう、もし少しでも印象に残りましたら、周囲に告知や拡散して頂けましたら幸いです。

Q01. 作家を目指したきっかけは?

もともとアートディレクター、デザイナーとして働いていたのですが、デジタルシフトが加速し作ったものがとてつもないスピードで消費されていく時代に自分も世の中に消費されて終わってしまう危機感が芽生え消費されないもの(残るもの)を作ることを目標にアーティスト活動を始めました。

 

Q02. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

建築家/デザイナー。

「もともと建築の大学にもいました。あまり勉強していなかったんですけど(笑)」とにいみさん。大学で建築を学んだ後、デザイン事務所に就職するも本格的なデザインの勉強を志し多摩美術大学グラフィックデザイン学科へ。卒業後はさまざまな会社を経て、広告代理店でアートディレクターとして活躍するが、「会社の役員から『美大を出たのになんで広告代理店なんだ? 世界と戦わないのか』と言われて腑に落ちて。それからアーティスト活動を始めました」

Q03. 青春時代、一番影響を受けたものは何ですか?

多摩美出身のクリエイティブディレクター。学生時代は佐野研二郎や佐藤可士和など、ブランディングも含めて担当するクリエイティブディレクターに憧れて、卒業後は広告代理店を目指しました。

 

Q04. もっとも影響を受けた芸術家は誰ですか?(物故作家を含む)

ジャクソン・ポロック、ドナルド・ジャッド、madsaki

にいみさんの立体作品《nature box》。「もともと建築を学んでいたのでミニマルアートが好きなんです。NYの〈ディア・ビーコン〉でドナルド・ジャッドやダン・フレビンの作品を観た時はアーティスト活動を頑張ろうと思いましたね。そんな影響からか、今は本来好きだった空間的な作品も実験している最中なんです」

Q05. 一目でにいみさんの作品とわかるほどに色味が個性的です。色に対してのこだわりはありますか?

最後に汚しを入れるのでなるべく発色が強い原色に近いものを使用しています。色に対しては自分でも課題があると思っていてまだまだ研究中です。

「three gunslingers」
¥1,980,000(税込)

「three gunslingers」
¥1,980,000(税込)

three gunslingers

¥1,980,000 -

スタジオの白い壁の至るところにスプレーの跡。「作品を作り始めた当初は注目を集めることや、マーケットを気にしたりもしていましたが、今は気にせず未来に残るものを作っていこうかなと模索しています」

Q06. 作品内の文字が反転している場合がありますよね。なぜですか?

アウトプットするときに広告のラフ作りと同じ作り方をしています。ラフを提案する時にまだコピーが決まってない時があります。その場合仮で言葉を入れて鏡文字にして提案することがあります。

制作に使用するシルクスクリーン。「デザイナーはフォトショップのレイヤーを駆使してデザインをしていきますが、それと同じで、シルクスクリーンで平面や立体に線を定着させながら作品を制作していきます」

消費をテーマに作品作りをしている中で普段表に出ない大量生産で利用されるシルクスクリーンの版自体を作品にした《Chimeramob》。「大量生産の根元にあるシルクスクリーンを作品にすることで、そのむなしさを皮肉っています」

Q07. 好きなフォントがあれば教えてください。

DIN、A1ゴシック

 

Q08. 絶妙なused感を感じます。それは意識されていますか?

パソコン上のデザインでは表現できない「物質感」みたいな部分を大切にしていて、綺麗なものではなく仕上げの時に汚しを入れています。

 

Q09. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など

箱を作る時の道具、キャンバスの表面を削る道具。

立体作品の土台となる木を削るための道具たち。「学生時代はアート作品を作ったことがなかったので、最初は木をまっすぐ切るのも大変でしたよ(苦笑)」

Q10. 無人島に1つだけ漫画を持って行けるとしたら何を持って行きますか?

学生時代から読んでいた『HUNTER×HUNTER』。

 

Q11. 「クリエイティブの消費」を制作のテーマに選んだ理由は何ですか?

アーティストを始めたきっかけが世の中に「自分が消費される違和感」からというバックグラウンドがあるので、これまで消費されたものを残るものにするために活動しています。

「デジタル広告の仕事をしていた時、1週間で広告効果がなくなるためクリエイティブを差し替えるので、めちゃくちゃな量のデザインを作るんです。せっかく作ってもなくなることの繰り返し、それが嫌だなって」

「nature box」
¥4,400,000(税込)

「nature box」
¥4,400,000(税込)

nature box

¥ 4,400,000 -

立体作品《nature box》に描かれるのは海外漫画の背景らしきもの。「漫画の背景って、アシスタントが頑張って描いても、なかなか光が当たらないじゃないですか。あと、この媒体は彫刻の台座なんです。そういったモチーフに僕の作品では光を当てます」

Q12. 「ここがヘンだよ日本の美術界」と思うところがあれば教えてください。

小さなマーケットの日本なのに村社会。

 

Q13. アートディレクターとアーティストの活動の一番の違いは何ですか?

クライアントワークか自己表現か。デザインはクライアントのためや社会の中で機能するものを前提に作っています。アートは自分の人生の写し鏡です。

 

Q14. 職業病だなぁと思うことは?

もともとザイナーをしていたこともあり論理的に作品を作ってしまう。なぜこのコンセプトなのか、なぜこのモチーフなのか、なぜこの素材なのかなどクライアントへのプレゼンテーションを前提にものづくりをしてしまう。

「めちゃくちゃ広告っぽい話なんですけど、アーティスト活動を始めた当初はまず気づいてもらうためにインスタの引用を頑張りましたね。インフルエンサーやタレントに『顔を描かせてください』ってDMを送って、引き受けてくれたらストーリーズにタグ付けして投稿。それでフォロワーを獲得してから好きな作品を作っていきました。職業柄ですよね(笑)」

Q15. 特技の欄に書くまでもないプチ特技を教えてください。

ギャンブル(スロットで多摩美の学費を稼ぎました)。

世界と戦うためにアートの世界へ。なんてギャンブラーな生き方なのだろうと思いましたが、ただ無鉄砲なわけではなく。インスタを巧みに取り入れるなど、アートディレクターやデザイナーの時代に培った武器を最大限活用されているところに強みを感じました。きっとアート界に新しい風を吹かせてくれることでしょう。

ところで、今まで意識したことがなかったのですが、デジタル広告の寿命が蝉くらいに短かっただなんて! 「その人を知りたければその人が何に対して怒りを感じるかを知れ」と誰かが言っていましたが、“クリエイティブの消費”に対するアンチテーゼがにいみさんの制作の原動力となっていたのですね。にいみさんのアート活動によって、日本のアート界の小さな村社会と、クリエイティブへの意識が変革することを期待しています。(とに〜)

Information
今後の展示スケジュール一覧

「Mob Power」

■会期
2024年6月20日(木)~2024年7月3日(水)13:00

■場所
Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 1F 交詢社通り側ウィンドウ)
東京都中央区銀座六丁目10番1号 
※Artglorieux GALLERY OF TOKYO(GINZA SIX 5階)内での展示はございません。
Artglorieux GALLERY OF TOKYOのHPはこちら

 

「Journey」

■会期
2024年7月5日(金)~2024年7月20日(土)

■場所
SH GALLERY
東京都渋谷区神宮前3丁目20-9 WAVEビル 3F
SH GALLERYのHPはこちら

artist-identity_bnr

 

ARTIST

にいみひろき

アーティスト

アートディレクターとして広告や、音楽、ファッションのアートディレクションを行いつつ作家活動を開始。 今日の大量消費社会、とりわけ、そこにおけるクリエイティビティの消費をテーマにした作品を制作している。 大量に生産され、供給され、そして時には廃棄される衣服や食品たちがある一方、現代はユーザーに消費を促すためにクリエイティブをも大量に生み出し、そして使い捨てている。 シュヴィッタースのメルツ絵画などの先行例を参照しながら、 そこに現代の産業と広告の関係性を持ち込み、消費されるクリエイティブたちを擁護するために描かれている。 社会から捨て去られた、あるいは時代によって使い古されたロゴやキャラクターを引用し、そして消費を象徴する最も現代的なアイコンとしてバーコードをフロントに登場させ、終わることのないクリエイティブの消費へのアイロニーとして描き出すことがにいみの作品のミッションであり、同時にこの時代に対するステートメントでもある。

DOORS

アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『こども国宝びっくりずかん』(小学館) 

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